上司と部下の対話が個と組織を強くする――部課長の対話力(3/3 ページ)

» 2010年08月10日 08時00分 公開
[村山昇,INSIGHT NOW!]
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なぜ部課長は対話から逃げるのか

 そうした対話の重要性は、経営者も管理職も多分感じていることでしょう。しかし、現場の部課長たちは「仕事・働くこと」といった重い直球のテーマについて、どことなく対話を避けている、もっと厳しく言えば逃げてはいないでしょうか。それはなぜでしょう。

  • 「そんなテーマの対話などよそよそしくてできない・気恥ずかしい」

 上司というものは、業務の指示・命令なら部下の心理にズカズカと強気で入り込んでいくのに、こうしたことになると、途端に引っ込み思案になってしまう。それは都合のいい臆病ではありませんか。確かに最初は照れくさい部分があるでしょう。しかし、「働くことを上司と部下が真正面から論議することは当然のこと」といった雰囲気で勇気を持って始めてください。対話が習慣・文化となれば、もはやよそよそしいものでなくなるのです。

  • 「忙しくて時間がない」

 部下との対話は彼らの動機付けであり、育成であり、組織の文化作りであり、活性化であり、これらは中間管理職としての業務そのものです。「業務そのものが忙しくてできません」というのはどういうことでしょうか。

  • 「対話するエネルギーが湧かない」

 世の部課長が疲れていることは知っています。対話には相当のエネルギーが要るので、これ以上しんどいことをやりたくないのは当然でしょう。ですが考えてみてください。対話のない冷めた組織を率いていくのと、対話によって活性化した組織を率いていくのと、結果的にどちらが使うエネルギーの量と質が自分にとって良いものなのかを。

  • 「どう対話していいか方法が分からない」

 恐らく方法が分からないのではなく、語るべき何かを持っていないのでしょう。

  • 「何を語っていいかが分からない」

 恐らくご自身の内に、仕事・働くことに関する確固とした観や哲学が打ち立てられていないのでしょう。

  • 「堅苦しい対話ではなく、酒の席でいつも気持ちを聞いてやってるので大丈夫」

 飲ミニケーションは時に有効です。が、酒の力を借りなければ本音が言い合えない組織は問題ですし、部下のすべてが酒席を好むわけではありません。

  • 「コーチングを勉強して、それをうまくやれればと思っている」

 コーチングは時に大事な技術です。しかし、「答えは君の中にある」という投げかけに頼って逃げようとしていませんか? コーチングは部下の持つ「1」を掘り起こしてあげる手伝いです。対話は「1+1=3」の共創作業です。コミュニケーションの種類が違います。上司が自分の「1」をぶつけられなくてどうするんです。上司がぶつけないかぎり、「3」は生み出されないのです。

  • 「経営者が魅力的な戦略もビジョンも出さないから、対話の材料がない」

 経営者がダメだからと理由付けしているあなたの下には、「うちの部長・課長がダメだから」とやる気を起こさない部下が多分何人もいることでしょう。

 部課長たちがこうして部下との対話を逡巡している間に、職場のギスギス化はどんどん進んでいます。「仕事・働くこととは何か?」という根っこにある大きな問いを上司も部下も放置すればするほど、職場は「しょせん、カネ稼ぎのための辛抱場所」という殺伐とした空気が濃くなっていきます。

 ギスギス化の要因を成果主義の導入や経済のグローバル化による利益主義と片付けることは簡単です。しかしマクロからああだこうだ言うだけでは事態は改善に向かいません。ミクロ、つまり1人1人に語りかけることからのアプローチが絶対的に必要なのです。

部課長の対話する力――それは組織にとって重大な分岐点である

 企業を強くする源は何でしょうか? 技術力、資本力、事業理念、経営者の指導力、組織風土、優秀な人財を集めること……それはさまざまに考えることができますが、私は「部課長の対話力」を無視してはならないと思っています。

 企業を強くするものを源まで突き詰めていくと、「働くことは厳しいけど奥が深い。もっと働くことにチャレンジしよう」という個々の働き手のアクティブな就労意識と、「この事業を通し社会で求められる存在になる」という組織の理念意志が相互に絡み合う状態です。この個と組織の有機的反応を促進するのが、ほかならぬ「対話」です。

 部課長が良き対話を起こしている組織は、仕事の厳しさを個人の成長と組織の発展に変えていくことができます。逆に対話をなくした組織は、個がどんどん心に余裕を失くし、自分のことで精一杯になります。結果、組織は砂漠化し弱体化します。その分岐点に存在するのは間違いなく部課長なのです。

 「仕事とは何か?」を部下と真正面から対話すること―――部課長はこれを腫れものに触るような感じで避けるのではなく、勇気を持って仕掛けねばなりません。(村山昇)

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