「医学部生は医者以外になるな!」と言わないで――18歳で人生決めますか?ちきりんの“社会派”で行こう!(2/3 ページ)

» 2010年08月09日 08時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]

税金で勉強しておきながら●●にならないなんてけしからん

 ところで、この議論に絡んでもう1つよく言われるのが、「税金で勉強しておきながら●●にならないなんてけしからん」という話です。防衛大学校や医学部はもちろん、理・工学部にも多額の税金が投入されています。「それなのに!」ということです。

 しかし、18歳で選んだ職業を後から変えたいと思った人を“税金泥棒”扱いするのはいかがなものでしょうか。国民に教育を授ければ、それがたとえ直接的に職業につながらなくても、長期的にはさまざまな形で社会に還元されるはずです。

 医学や医療の基礎知識を身に付けた人が、法律や行政の世界、金融やITの世界、さらに教育の現場などで働くことは、遠回りながら大いに国や社会のためになるでしょう。また、音楽家にはならなかったけれど音楽教育を受けた親や、医者にはならなかったが医学教育を受けた親が子どもを育てたり、地域のコミュニティに参加することもメリットがあるでしょう。

 それは、「専門知識が直接的に役に立つかどうか」というだけの話ではありません。多様な分野の専門教育を受けた人が職場や組織にいて、異なる視点からの議論ができれば、それがそれぞれの場所での思考の深さに、ひいてはその企業や組織、産業の強さにつながるはずです。

 “教育=職業”という直線的な効率性追求だけを正しい道と位置付ける“税金泥棒呼ばわり”は、決して生産的な議論とは思えません。

進路変更を容易に

 「そんなことを言い出したら、医者が足りなくなる」という人もいますが、それなら医学部の定員を増やせばいいのです。定員を増やせば入試も楽になり、そうすれば途中で「これは違う。自分は医者に向いていない」と思った人が、進路変更をする際の抵抗が少なくなります。

 「この職業は自分には向いていないけど、もったいないから医者になった」という人に診てもらいたい患者は多くないでしょう。それに、医者の質の確保は、大学入試の難易度ではなく、医師免許取得のための国家試験で担保すればよいのです。

 またそのことにより、ほかの道を進んでいた若者が20代半ばで「やっぱり医者になりたい」と思った場合に、途中から医者を目指すことも容易になります。18歳の時には医者を目指していなくても、そういう人の中に、医者という職業に向いた人もいるはずでしょう。

 今の制度では、18歳で医者になりたいと思った人には一生医者として生きることを求める一方、18歳で医者になりたいと思わなかった人が後に医者になろうとすると、学士編入学制度はありますが非常に狭い道となっています。これでは親戚や家族に医者がいたかどうか、親が教育熱心であったかどうかで職業の選択が決まってしまいかねません。

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