コラム
» 2010年07月30日 08時00分 UPDATE

JALが教えてくれる「業績低迷後のコスト削減は焼け石に水」 (1/2)

リーマンショック以降の不況に対して、各社はコスト削減で生き残りを図ってきた。最近になり、景気底打ちの声も聞かれ、「よしコスト削減は終わった。これからは攻めだ」と考える経営者も多いかもしれない。しかし実はそうした考えは誤りで、「攻めの時こそコスト低減の時である」ということを、会社更生手続き中の日本航空をケースに学ぶ。

[中ノ森清訓,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:中ノ森清訓(なかのもり・きよのり)

株式会社戦略調達社長。コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供している。


 最近、会社更生手続き中のJAL(日本航空)が、再建に向けてコスト削減を加速させているとの報道がありました。

 8月末の更生計画案の提出に向け、JALではコスト削減の取組を続けています。例えば、整備工具や資材を新品と中古に分けて保管し、新品には単価を記載し、なるべく長く使用することを促す。全社員からコスト削減のアイデアをつのり、7000件を超える提案を集める。その中から、「人員削減で余った机やイスをイントラネットで公開し、グループ全体で再利用」「両面コピーを取る」「休み時間に電気を消す」などの提案を励行しているとのことです。パイロットの深夜、早朝を除く帰宅時のタクシー送迎の原則禁止が導入され、空港まで自家用車での通勤を促す計画もあるといいます。飛行条件に応じて燃費が最も良いルート、高度や速度、燃料の搭載量を細かく見直すことによる10億円のコスト削減を含めると、こうした努力の積み重ねで30億円のコスト削減ができるとJALは試算しているとのことです(出所:2010年7月22日 読売新聞 Yomiuri Onine)。

 30億円というと大きなコスト削減と思われるかもしれませんが、2009年度のJALの事業コストは約2兆円で、30億円のコスト削減は0.15%に過ぎません。また、2010年の6月末には、JALの債務超過金額は約1兆円となっています。

 こうした数字が示すのは、JALに必要なのは小手先のコスト削減ではなく、抜本的な収益構造、コスト構造の転換ということです。

 例えば、主な航空会社が1座席を1キロ飛ばすのに必要な輸送単位コストはANAが約15円、ルフトハンザが約13円、AF-KLMが約10円、スカイマークが8.5円、シンガポール航空が約7円、デルタ航空が約5.5円、エア・アジアが2.7円です(出所:2010年7月9日 日本経済新聞17面)。JALはデータがないので分かりませんが、ANAとの収益力の違いを考えると、ANAを上回っているのではないかと思います。

 コスト削減というと、とにかく支出を抑える、コストを下げる、無駄を省けばよいと思われがちですが、コスト削減には何らかの投資が必要です。どんなコストでもそれを下げようとすれば、どのような方法があるのか、それによって問題が生じないかを検討し、そのコスト削減方法を社内に浸透させるために、少なくとも従業員1人はその問題に貼り付けなければなりません。

 加えて収益構造を変える、コスト構造を抜本的に変えるようなコスト低減には、設備を変えるなどのキャッシュでの投資が不可欠なことがほとんどです。

 例えば、JALの再建案の主な柱は「国内外45路線からの撤退」「約1万6千人の人員削減」「燃費の悪い老朽航空機の退役」です。これらを実施するには、退職金や機材処理などの費用がかさみます。企業再生支援機構がJALの再建支援に乗り出す前に、債務超過額が試算されていた約7600億円から1兆円にまでふくらんだのには、こうした費用が生じているからです。費用が発生しないJALの追加策としては社員給与のカットくらいですが、高給批判のあるパイロットの給与を仮に半分にしても(まず無理ですが)、年250億円のコスト削減、ようやく1.2%の事業コストの低減です(出所:2010年6月18日 日本経済新聞13面)。

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