「朝日、オリコン、裁判所」ともあろうものが。35.8歳の時間・烏賀陽弘道(3/7 ページ)

» 2010年07月30日 08時00分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

会社はいつでも辞められる理論

 名古屋本社の社会部(入社5年目、28歳)在籍中に「新聞記事を書くのは、もういいな」という感じがし始めました。満腹感っていう感じかな。新聞記事というのは、基本的に誰が書いても同じようなもの。誰が書いても同じになるようにテーマの選び方や文体を管理している。誰がやっても最終製品が同じになるような組織運営がされている。「もっと自分でないと書けない記事はないだろうか」「ボクだからこそこの記事が存在した」と模索し始めました。しかし朝日新聞社はそんなことを記者に求めていない。それが分かってきました。

 同業他社への転職やフリーランスになることも考えました。精神的にも肉体的にも疲れていたので「母校の大学院にでも行こう」と思っていたら、いきなり上司が雑誌『AERA』へ行けと言い出した。「まあ全国紙に就職したんだし、一度は東京で働かないと損だろう」とちょっと退社を先延ばしにした。「『AERA』で働いて、ちょっと様子を見るか。つまらなかったら、その時点で会社を辞めればいいや」と思っていました。「会社はいつでも辞められる理論」ですね(笑)。

 アエラ編集部に配属されると、驚いたことに「何を取材してもいい」と言われました。好きなことを取材をさせてもらって、好きなように書かせてもらえる。そして実際に「烏賀陽がいなければこの記事は存在しなかった」という記事を書かせてくれたんです。新聞で書いていたときには「これは面白いけど書けないネタ」の連続でしたが、アエラ編集部に来て、その「書けない領域」が消えました。例えば三重県警を担当したいたときには、火事だ汚職だ爆発だと警察記事ばかり書いていました。それは自分が選んだ仕事ではなくて、仕事がボクを選んだだけ。「オレは音楽のことを書けば、面白い記事を書けるのに」という自信があっても、三重県に音楽のネタはなかった(笑)。

 ところが東京に来てみると、メジャー、インディーズ問わずレコード会社は山のようにあるし、コンサートもたくさんある。日本のミュージシャンだけではなく、外国からもたくさんやって来る。ネタがたくさんあるので毎日「アレも書きます、コレも書きます」といった感じ(笑)。

 「烏賀陽ではないと書けない記事」といっても、案外簡単なんです。例えば「新宿や上野でドラッグが簡単に買える」ということを聞いたので、潜入取材を試みました。散髪をせずに、無精ヒゲをはやして、汚い服装で、実際に売人に会ってドラッグを買いに行きました。するとマリファナが簡単に買えてしまう。いや、買う寸前で止めましたけど(笑)。覚せい剤、コカイン、ヘロイン、LSD……まるで「ドラッグ天国」のように買えるわけですよ。ボクがかつていたニューヨークよりも東京の方が、ドラッグの種類が多く、簡単に手に入る――というルポを書きました。この記事の反響はとても大きくて、海外メディアからもボクのところに取材に来ました。

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