もし『踊る大捜査線』の青島刑事が上司だったら吉田典史の時事日想(2/3 ページ)

» 2010年07月30日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

 どちらかといえば、上司という権力や立場を背景に部下を強引に動かしているように映る。取材者である私がそばにいることもあり、部下への物言いはソフトだが、仕事についてそれをやるべき理由を伝えていないし、部下がこの仕事をすることのメリットも教えていない。部下からすると、「なぜこの仕事をするのだろう?」「そもそも、俺がどうして……」と疑問を感じているのではないだろうか。

 まるで自分が青島刑事のようにスムーズに部下を動かすことができるかのような書き方だが、実は私もできない。ささやかな経験論から言えば、いざ管理職になり、部下を持つと織田さんが言うようにはまずできないものなのだ。

 特にいまは、多くの会社の職場は多様な考えや価値観で構成されるメンバーになっている。中途採用試験を経て入社した人や非正社員が増えて、女性や外国人もいる。年代も20〜60代にまで及ぶ。コンサルタントが最近よく使う言葉で言えば、まさに「ダイバーシティ」(多様性)なのだ。管理職としてこういう職場を指揮するのは、口でいうほど簡単ではない。

 青島刑事が率いるチームのメンバーも、個性的だ。PCおたく的な若手がいれば、元機動隊員だった硬派な刑事もいる。行動派で美人の女性刑事、さらには中国から研修で来た刑事もいる。青島は時々、こういう部下の言動に困惑するが、露骨に顔に表すことはしない。部下の心をつかみ、おおむねうまく動かしているのだ。だからこそ、会社員にはこの映画を見ることを勧めている。

「俺に部下はいない。いるのは、仲間だけだ!」

 青島刑事の部下への指導力や接し方などを表すもっとも象徴的な言葉は、次に挙げたものだと思う。「俺に部下はいない。いるのは、仲間だけだ!」。それほど含蓄のある言葉ではない。だが会社員からすると、深い意味があると思う。

 日本企業の組織の特徴は、次のようなことがよく指摘される。

 それぞれの社員(この場合は正社員)の職務はあいまいであり、実際にする仕事の範囲は状況しだいで広くなったり、狭くなったりする。ほかの人を手伝ったり、応援したりすることもある。つまり、明確には決められないグレーの部分が存在している。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.