暴力行為、許すまじ……筆者が経験した恐い話相場英雄の時事日想(1/2 ページ)

» 2010年07月29日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『誤認 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 7月23日、『鬼畜のススメ』『社会派くんがゆく!』などの人気シリーズで知られる作家の村崎百郎氏が男に自宅で刺殺されるという痛ましい事件が起こった。警視庁は現在、殺人容疑で逮捕した男に刑事責任能力があるか否かを調べている。作家を生業とする筆者にとって、この事件はとても他人事ではない。憎むべき卑劣な犯罪であることに間違いはない。故村崎氏のご冥福をお祈りすると同時に、今回の時事日想では筆者が経験した恐い話に触れてみたい。

駅ホームは壁際を歩け

鬼畜のススメ』(データハウス)

 「駅のホームでは常に壁際を歩き、絶対に車両に近づかないこと」「不審者を発見したら、即座に通報すること」――。

 今から10年ほど前のこと。筆者が所属していた通信社の経済部、金融担当記者数人に対し、こんなお達しが出される一幕があった。事の発端はこうだ。都内に本店を構えていた第二地方銀行の巨額不良債権に関する取材で、経済部の金融担当記者が駆けずり回ったときだった。

 先輩記者数人が精緻な取材を積み重ねた結果、古巣の通信社は同行の破たんが不可避との報道に踏み切った。一方、これが先走りだと判断した当時の監督官庁は、古巣の通信社に対し、1カ月間の出入り禁止処分を課した。

 ここまではごく普通の話だったのだが、事態はその後、意外な方向に走り出した。同行の実質的なオーナーは、反社会的勢力との癒着が長年ささやかれていたいわくつきの人物だった。当然のことながら、通信社の報道に激怒した。

 ここまでは想定内だったが、報道の直後、同行の幹部数人が荒っぽい行動に出たのだ。同行幹部たちは、監督官庁が率先して情報をリークしたと誤解し、直接、官庁の幹部に猛抗議したのだ。「抗議というより殴り込みだったため、警視庁に警備を要請した」(当時の担当者)。

 監督官庁と古巣の通信社は報道の是非をめぐって絶縁状態だったのだが、「人命に関わる事態であり、出入り禁止措置は二の次」(同)と判断され、殴り込みの様子が伝えられたというわけだ。

 筆者は当時、同行が意図的に不良債権を海外市場に移す“飛ばし”に手を染めていた疑いが濃厚だとの情報をキャッチし、関連取材を行っていた当事者の1人だった。このため、冒頭のような異例の伝達を受けたのだ。

 アクション映画やサスペンスドラマでは「月夜の晩ばかりだと思うな」的な脅し文句は頻繁に出てくるが、自分の身にこうした事態が降り掛かってくると、なんとも言えない気味の悪さを感じてしまうのだ。これは実際に経験したことがないと、絶対に理解できない。筆者は今でも駅のホームでは壁際を歩き、絶対に電車が停車するまでは車両に近づかないことにしている。

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