マクロ撮影で生きるNikomat FTN-コデラ的-Slow-Life-

» 2010年07月29日 08時00分 公開
[小寺信良,Business Media 誠]

 では久しぶりに、Nikomat FTNでの撮影である。古いカメラではあるが、TTLの露出計を内蔵しているので、マニュアル撮影は楽ができる。Nikomatの露出計はCdS(硫化カドミウム素子)なので、電池が必要になる。あいにく当時標準だった水銀電池は現在は生産中止なので、普通のボタン電池を使うためのアダプタを購入するか、互換電池を購入することになる。

 筆者は同サイズの「V625U」という互換アルカリ電池を使っている。以前は1個105円と廉価なものがあったのだが、やはり需要が少ないのか最近はみかけない。西新宿のヨドバシカメラで1個420円である。

コデラ的-Slow-Life 電圧は違うが、いまでも互換電池は入手可能

 昔の水銀電池は1.35ボルトであったが、アルカリ電池は1.5ボルトであるため、多少露出計がオーバーに振れる。それを見越して、だいたいセンターよりも1段ぐらい明るく振れるあたりに露出を設定すれば、ちょうどよくなる。電池と接点の間に銀紙を挟んで電圧を下げるという荒技もあるのだが、まあそこまでやらなくてもいいだろう。

 TTLがあるということは、エクステンションチューブを付けての撮影でも、正確に露出が分かるということである。これまでこの連載でも何度かエクステンションチューブによるマクロ撮影をやってきたが、露出計を内蔵しないカメラばかりだったので、露出決めが面倒だったのだ。

 使用レンズは、Nikkor 24ミリ/F2.8の一本勝負である。ワイドレンズなので、元々30センチぐらいまで寄れるのだが、エクステンションチューブを付けると非常にイイ感じのマクロ撮影ができる。

 まずは開放で撮影してみた。Nikomatはシャッタースピードが1/1000まであるので、ISO100のフィルムを使えば、NDフィルタなしでもF2.8で撮れる。被写界深度はものすごく浅くなるので、見せたい被写体のどこに合わせるか、立体物の場合は結構悩む。しかし、後ろのボケはすばらしいものがある。

コデラ的-Slow-Life 開放で撮影。後ろの雲がいい感じだ

 一方F22まで絞ると、昨今のデジカメ風というか、がしっとキレのいい写りが楽しめる。被写体まで5センチぐらいの距離だが、レンズがワイドなので大きな花も余裕である。

コデラ的-Slow-Life めいっぱい絞って撮影。かっちりした絵になる

露出へのこだわり

 Nikomat FTNは、露出計がこれまでの全面平均測光から、中央重点測光に変わった最初のモデルである。いまでこそ、どのように露出を図るかはユーザーが自分で選べるようになっているが、昔は切り替えなどできなかったので、カメラごと換えるしかなかったわけである。

 どちらの測光方式が優れているということではなく、ケースバイケースであろう。しかし、これまでは全面測光しかなかったため、逆光では被写体が真っ暗になったわけだ。露出エリアを区切ることで、難しい光でも上手く撮影できるようになり、多くの人は中央測光という機能に感激したのである。

 Nikomat FTNの特徴は、この露出の旨さだと思う。以下はエクステンションチューブなしで、24ミリ/F2.8レンズそのままの描写だが、逆光の空抜けという難しい条件にもかかわらず、バランス良く撮れている。プレビューができないフィルムカメラではあるが、安心して撮影できる名器だ。木陰の中で木漏れ日を受けた花も、高コントラストでうまく収まっている。

コデラ的-Slow-Life 逆光気味でも正確な露出
コデラ的-Slow-Life 木陰で拾った光もうまく捉えている

 実はカメラの軍艦部にも、露出計の表示が付けられている。これはおそらく三脚でアングルを固定しておきながら、ファインダーを覗かずに露出が確認できるようにと付けられているのではないかと思うが、本当のところはよく分からない。しかし、改善された露出計を上手く使って欲しいという技術者の願いが、ここに現われているような気がする。

コデラ的-Slow-Life 軍艦部にも露出計表示がある

小寺 信良

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映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。


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