業界が“先祖返り”している――『ハルヒ』『らき☆すた』の山本寛氏が語るアニメビジネスの現在(4/4 ページ)

» 2010年07月26日 08時00分 公開
[堀内彰宏Business Media 誠]
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優れているアニメと面白いアニメとを切り離して考えるべき

――具体的にはこれからアニメ業界はどういうことをしていけばいいのでしょうか?

山本 もうけが少ない中で、制作費だけよこせというわけにはいかないので、やっぱり意識の問題ですね。意識改革をしないといけない。

 例えば、実写の『私の優しくない先輩』は低予算映画で、制作日数も短い中、やれることをやったという作品です。だからといって、「この作品はクオリティが低いので、見れたものではない」とは言わないじゃないですか。実写ではそれが成立するんです。低予算で3日で撮っても、面白いものは面白いと言ってくださる。A級映画だろうが、B級映画だろうが関係なくて、むしろそれが崩れてきている。制作費100億円と銘打ったハリウッド映画がどんどんこけているようなご時勢ですから、もうそういうのが通用しなくなっている。

 アニメもそうしてほしいということです。アニメも面白いものがウケるんだという意識改革を、僕らが業界の中でしないといけないんです。作画のクオリティを上げれば売れるわけではないことは、はっきりと数字に出ているので、もっと力の配分を考えないといけない。それで結果を残して、その経験を現場にバックするようにしていけばアニメはまだ持つと思います。

 この調子でこれでもかとクオリティを上げていったら、間違いなく空中分解するでしょうね。スタジオジブリですら空中分解するでしょう。「スタジオジブリは宮崎駿さんが亡くなったら、あっという間に終わってしまうだろう」と誰もが言います。『借りぐらしのアリエッティ』は作りこんでいて、見た目はすばらしい出来になっているのですが、それで売れているというわけではないということです。あくまでも宮崎駿さんを中心として作り上げられたスタジオジブリの物語に、みんなが興味を引かれて見に行っているのであって、あれだけの高い技術力があるから見に行くわけではありません。あくまでストーリーや世界観が第一で、作画の良さは二の次ですよね。

『借りぐらしのアリエッティ』公式Webサイト

 ブランド力に関して、ディズニーは1回失敗しているんです。ウォルト・ディズニーが亡くなった後、ハワード・アッシュマンというブロードウェー出身のプロデューサーが中心となってディズニーを立て直そうとしたのですが、途中で亡くなり、プロジェクトリーダーがいなくなってしまったんです。それで「どこにいけばいいんだ」ということになって、その時に手描きのアニメーターを全部切り離してしまったのです。ブランド力を失って、その後の戦略を立てられなかった方々の末路ですよね。今は「やっぱりヤバイ」ということで、アニメーターを呼び戻したり、ピクサーを吸収したりしていますが。だから、スタジオジブリとて例外ではないということです。

 優れているものと面白いものとを切り離して考えないといけない。もちろん僕らはクリエイターである以上、「優れているものを作りたい」という気持ちは当然のことながらありますし、それがない人間は業界にいてはいけないと思います。しかし、それをモチベーションとして持っていながらも、この業界は商売でやっているわけなので、生きていくため、食べていくため、この業界にお金を落とすため、この業界のみんなを幸せにするために「面白いもの=お金を落とす価値のあるもの」を作らないといけないんです。それを今こそ分けて考えるべきなんじゃないかなと思います。

私の優しくない先輩』(7月17日公開)

<あらすじ>九州の片隅にある小さな小さな島に引っ越して来た女子高生・西表耶麻子(いりおもてやまこ)(川島海荷)の悩みは、大好きな南先輩(入江甚儀)に告白できずにいること。学校ですれ違うたびにドキドキして、妄想は膨らむばかり。何度も何度も書き直したラブレターは、ポケットの中で賞味期限切れ。おまけにそのラブレターの存在を、クサくて、キモくて、ウザイ、苦手な不破先輩(金田哲)に知られてしまう。不破先輩と耶麻子は、たった2人きりの部活動。楽チンだと思って選んだ体操部だったが、耶麻子は不破先輩のスパルタっぷりにおびえる日々。そんな不破先輩に南先輩が好きなことがばれてしまった!そしておせっかいな不破先輩が無理やり「南先輩への告白大作戦」を始める! だが、耶麻子には誰にもいえない秘密があった……。友達の喜久子(児玉絹世)や父母(小川奈摘、高田延彦)をも巻き込んで、耶麻子の恋の行方はどうなるのか!? (c)2010 『私の優しくない先輩』製作委員会


BLACK★ROCK SHOOTER』(7月24日から各雑誌の付録として配布開始)

<あらすじ>−少女たちの想いは、純粋で、そして激しい。−

中学校へ入学した黒衣マトは、入学式の日に一際目を引くクラスメイト、小鳥遊ヨミと出会う。天真爛漫なマト。どこか大人びたヨミ。対照的な二人は一緒の時間を過ごすうちに友情を深めていく。2年に進級しクラスが離れてしまった少女たちの心がやがてすれ違い始める。

そして時を同じく。もう1つの世界では、青い炎を瞳に宿す少女、ブラック★ロックシューターと、漆黒の大鎌を持つ少女、デッドマスターが死闘を繰り広げていた……。


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