インタビュー
» 2010年07月26日 08時00分 UPDATE

業界が“先祖返り”している――『ハルヒ』『らき☆すた』の山本寛氏が語るアニメビジネスの現在 (3/4)

[堀内彰宏,Business Media 誠]

ネットの力に屈した

――『オトナアニメ Vol.17』で「作画のクオリティが求められすぎる“クオリティバブル”が起こっていて、アニメ業界が食っていけなくなっている」と山本さんは書かれていました。日本のものづくりという意味でも同じようなことは言えるかもしれないと思うのですが、なぜアニメで作画のクオリティが求められすぎる状況が生まれているのでしょうか?

山本 これにはいろんなマジックがあって、実は絵だけを重視して見ているアニメオタクって少ないんです。ごく一部の“作画オタク”と言われている人の発言権がネットによって大きくなってしまっていることが影響しています。これは実地で体験しているのですが、そのごく一部の大きな声を現場が真に受けてしまって、あわてふためいた結果がクオリティバブルなのです。「おいおい、求められているものが違っているだろう」と思うのですが(笑)。

ah_yamakan2.jpg 『電脳コイル』

 実はアニメオタクの大部分はそんなに作画に詳しくないんですよ。これは統計上も言われていることなのですが、作画オタクが狂喜乱舞した作品は売れないんです。その最たる例が究極の作画アニメと言われている『電脳コイル』(2007年)で、最近だと『鉄腕バーディー DECODE』(2008年、2009年)でしょうか。作画オタクは狂喜乱舞するのですが、まったく売り上げに結びついていないのです。

 僕はかつて「ネットの力に屈した」とゼロ年代(2000年から2009年までの10年間)を評したことがあるのですが、まさにこれですよ。ネットに踊らされて、「もっとすごいものを作らないといけない」と思ってあわてふためいた結果、現場だけ疲弊してもうからないという。

 もちろん絵のクオリティは大事なのですが、あおられたから必要だというのではなくて、制作側が必要とするレベルのクオリティについて、もう1回見直そうよということですね。『BLACK★ROCK SHOOTER』も見事にネットの声にあおられて作っているので、結果的には“ただの作画アニメ”と言われるかもしれません。だから、人ごとではないんです。ウチもそのあおりを食らっていて、「これでは『BLACK★ROCK SHOOTER』のファンには通用しない!」とかアニメーターたちが主張していました。「そうかなあ?」と思うのですが、「いや、これだけのクオリティはないと」と身内からも言われるので、「これはまずいなあ」と感じています。

 クオリティバブルがエスカレートして、どこかで逆風が吹く瞬間があるとは思います。でも、一気にクオリティが落ちることはないと思います。(絵を必要以上に重視したアニメが)淘汰されても、腕のそんなによろしくない方々から切られていくので、残るのはやっぱりうまい連中なんです。

 ただ、アニメ制作はチームプレイであって、そんなに上手くない人も含めて、1つのテレビシリーズを安定したスケジュール、安定したクオリティで制作するというのがこの業界の仕組みです。しかし、今、不景気のあおりや、クオリティバブルに応えないといけないんだという業界のあせりから、そこそこの人をどんどん切り捨てていっているので、野球で言うと「気が付けば4番打者だけ残っていた」という状態になって、ホームランは打つけど大量点は入らないという野球になるんじゃないですかね。だから、一部の人がクオリティにやたらとこだわって作品を制作するものの、結果にはつながらないという状態がしばらくは続くのではないでしょうか。

 今は、(クオリティよりも)ブランド力が重要です。エヴァンゲリオンやガンダム、スタジオジブリなどは、ブランドの力で何とか持ちこたえている部分があります。しかし、そのブランド力もいつか消える瞬間があると思います。

――ブランド力はどのように築き上げていくものなのなのですか?

山本 それは違う市場を巻き込むしかありません。10万人のアニメオタク市場だけに向けて発信するだけでは、その中でのパイの奪い合いになってしまうだけです。あるところで勝っても、あるところで負けてしまうし、勝つ量もたかが知れている。『化物語』(2009年)や『とある科学の超電磁砲』(2009年)といった作品は売れていますが、その10万人の市場の範囲内で勝負しているので、ブランド力にはなりません。ブランド力を付けるには、その外にいかないといけない。この市場にいる人たちの間では、はやりすたりが激しいので、いいと思ったものがあったらすぐにそっちに行ってしまうので。

 つまり、自分たちの市場を確保できたら、ブランド力だと思います。浮動票みたいなところで争うのではなくて、組織票でがっちり固めてしまうという。そういう意味では、『東方Project※』という作品群があるのですが、あれは本当に独立した一大市場なんです。そのファンは決してアニメファンではなく、独自の市場を作っているのです。だから、そういうところが残っていくんだろうなと思います。

※東方Project……同人サークル「上海アリス幻樂団」によって制作された弾幕系シューティングゲームを中心とした、ゲームや漫画、小説などの作品群のこと。

Copyright© 2017 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ