インタビュー
» 2010年07月26日 08時00分 UPDATE

業界が“先祖返り”している――『ハルヒ』『らき☆すた』の山本寛氏が語るアニメビジネスの現在 (1/4)

日本発コンテンツとして期待され、国際的にも注目を集めていると言われているアニメだが、制作現場の労働環境の悪さが伝えられることも少なくない。『涼宮ハルヒの憂鬱』や『らき☆すた』を手がけた山本寛氏にアニメビジネスの現在を尋ねた。

[堀内彰宏,Business Media 誠]

 日本発コンテンツとして期待され、国際的にも注目を集めていると言われているアニメ。四半期ごとに新しいテレビアニメが何本も放映され、ブログやTwitterのタイムラインをにぎわせている一方、それらを制作しているアニメ業界の労働環境の悪さが報じられることも少なくない。そんなアニメ制作の最前線に立っている業界人は、アニメビジネスについてどのように考えているのだろうか。株式会社Ordetの山本寛(やまもと・ゆたか)代表取締役に現況を尋ねた。

 山本氏は京都アニメーションで『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006年)のシリーズ演出としてエンディング「ハレ晴レユカイ」のダンスを手がけて話題を呼び、『らき☆すた』(2007年)には監督として関わった。2007年に株式会社Ordetを設立、7月24日にリリースしたアニメ『BLACK★ROCK SHOOTER』を監修しているほか、7月17日に公開された実写映画『私の優しくない先輩』の監督も務めている。

ah_yamakan0.jpg 株式会社Ordet代表取締役の山本寛氏。デジタルハリウッド大学で行われた『私の優しくない先輩』試写会&メイキングセミナーの後のインタビュー

アニメ業界が先祖返りしている

――現場から見たアニメ業界の現況を教えていただけますか?

山本 ある意味で「もう商売にできないのかもしれないなあ」と感じています。「今、加速度的に“先祖返り”しているのかな」とも思っています。7月24日にリリースしたアニメ『BLACK★ROCK SHOOTER』はグッドスマイルカンパニーというフィギュアメーカー、いわゆるおもちゃ会社が製作委員会の幹事会社となって作ったアニメです。おもちゃを宣伝するためのアニメになっていて、これは現在主流のスキームではないのですが、1970〜80年代には主流だったスキームで、そこに今、戻ろうとしているんですよね。

ah_yamakan20.jpg 『BLACK★ROCK SHOOTER』公式Webサイト

 『BLACK★ROCK SHOOTER』には配信する媒体がありません。しいて言うならDVDで、会社が違う3つくらいの雑誌にDVDソフトを付けて、無料配布します。テレビというメディアも介さないので、言ってしまえば“手売り”ですよね。

 「DVDソフトをあげるから、その代わりにおもちゃを買ってね」という大胆不敵な手法に出たのですが、世のビデオメーカーは「そんな風に配布されたら、俺たちの商売は上がったりだ。それで食っているのに」と大激怒です。でも、「そのスキームで業界の人間が食っていけない時代になっているのなら、もうしょうがないんじゃないですか」と僕は思っています。

 これはネット社会の弊害なのですが、どうしても作品映像はYouTubeなどにアップされて見られてしまいます。もうこれを止めることはできないと思うので、お皿(DVDソフトやBlu-rayソフトなど)を売って映像そのもので商売するのには限界が来ている。それならば、作品に関連したおもちゃを買ってもらう代わりに映像はタダですよ、で僕はいいと思っています。

 あるいはもっと先祖返りして、パトロンがお金を出して、アニメを制作するようになるかもしれない。それで作品が貴族の家の額に飾られようが、博物館に持っていかれようがそれはそれでいいんじゃないか、というか「それもやむなし」という感じですね。僕らはとにかく作品を残さないと意味がないので、作品を残せるのであれば四の五の言っていられないという時代が来るんじゃないですか。もちろん、できるだけ多くの人に作品を見てもらいたいという気持ちはあるのですが、ごちゃごちゃとした利害関係の中でそれを言っている場合ではないということです。

――おもちゃ会社以外の企業、例えばクルマ会社やビール会社などがスポンサーになる可能性についてはどうお考えですか? テレビアニメ『けいおん!』(第1期2009年、第2期2010年)が楽器販売に影響を与えたようなことは他業界でもできるのではないでしょうか。

山本 その辺でさすがだと思ったのは、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが愛知県豊田市のトヨタ自動車本社内に「西ジブリ」というスタジオを作ったことです。「おお、トヨタと組むつもりか。さすが鈴木さん、先見の明がある」と感じました。だから、そういった他産業に対する目配りも積極的にしていっていいと思うんです。

 実写の『私の優しくない先輩』ではカルピスに特別協賛として入っていただいたのですが、そういう提携の仕方はアニメも考えていかないといけない。村社会に閉じこもって悶々としている場合ではなくて、アニメは色んなところに売っていく必要があって、それに億劫(おっくう)になったところから多分、崩れていくのでしょう。

 スタジオジブリはディズニーと提携したり、トヨタと仲良くしたりと、意外とラディカルにやっています。この業界の最先端はスタジオジブリなのですが、それだけ危機意識を持って、アンテナを張りめぐらせて、色んなことを考えていらっしゃるんだろうと思います。だから、それに僕らも付いていかないといけない。

ah_yamakan21.jpg 『私の優しくない先輩』公式Webサイト

――大所帯のスタジオジブリに比べると、小所帯の会社の方がYouTubeを活用するなど、新しいことをゲリラ的にやりやすいとも思うのですが。

山本 それはできるのですが、劇場用アニメが最初に作られてから、50年以上つちかってきた業界の仕組みというものがあるんですね。もう、分担作業でないと成立しなくなっているんです。

 5分くらいのアニメを小出しにするのなら、10人くらいしかいない弊社だけでもゲリラ的にできます。ただやっぱり、「作るなら最低30分で」と思うじゃないですか。「30分のアニメを作りたい。どうせなら1時間で作りたいよね」となるとマンパワーがいるんです。例えば『BLACK★ROCK SHOOTER』は社外の色んなところに作業をお願いして、50分の作品を1年がかりで作ったのですが、弊社だけなら5年かけても作れていないと思います。

 これは経営者の目線になってしまうのですが、「少ない人数でじっくりやれば、作れるんじゃないか」と思われがちなんですよね。確かにじっくり作れて、その間の生活が保障されれば作れますよ。でも、僕らはかすみを食って生きているわけではないですし、1人あたりの分担される作業が増えると、それだけ長い時間がいるわけじゃないですか。

 だから『BLACK★ROCK SHOOTER』でも、最終的に外注することにしました。時間がないというより、キリがなくて、「本当に会社が傾いちゃうぞ」ということになったので、何とかスタッフを納得させて完成させたのです。そのままいっていたら、予算を食いつぶしておしまいだったでしょう。僕は「お金で時間を買う」と言ったのですが、時間とお金のバランスを見ると、やっぱり今の仕組みが一番いいんです。これを崩してしまうと、時間がかかる上に、お金もかかってしまうことになります。

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