紀州南高梅を引き出物や香典返しに!? 販売チャネルを革新せよ――勝喜梅・鈴木崇文さん(後編)嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(1/5 ページ)

» 2010年07月23日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

嶋田淑之の「この人に逢いたい!」とは?:

 「こんなことをやりたい!」――夢を実現するために、会社という組織の中で、あるいは個人で奮闘して目標に向かって邁進する人がいる。

 本連載では、戦略経営に詳しい嶋田淑之氏が、仕事を通して夢を実現する人物をクローズアップしてインタビュー。どのようなコンセプトで、どうやって夢を形にしたのか。また個人の働きが、組織のなかでどう生かされたのかについて、徹底的なインタビューを通して浮き彫りにしていく。


 長い不況に沈む日本。東京では低価格競争を勝ち抜いた企業が、業界を問わず脚光を浴びている一方、地方が元気をなくしてから、一体どれだけの歳月が経過しただろうか? 

 そういう中にあって、地方の中小企業ながら、しかも、ご時世的に難しい高級ブランドで成長を遂げている企業がある。それが、紀州南高梅の中でも「特A」クラスのみを扱う、和歌山の梅干製造・販売会社「勝喜梅」である。同社は一時は迷走し、経営が傾いたが、鈴木崇文常務のリーダーシップのもと、経営革新を断行し、V字回復に成功した。

 前編ではまず、知ってそうで意外と知らない紀州南高梅そのものについてご紹介した。そして、勝喜梅はどのような思いの中で創業したのか。最初の成功とその後の迷走の経緯はどのようなものだったのか。さらには、どん底からの経営革新は、鈴木さんのリーダーシップのもと、どのような社内状況の中で、いかにして推進されたのか、そのプロセスをご紹介した。

 そこで、後編ではまず、その後の同社の快進撃について紹介したい。意表を突くような発想ゆえに、奇策に見えがちであるが、しかし実は理に適った同社の販売チャネル開拓。それを可能にした社内的な要因は何なのか。そして、同社は今、どこに向かおうとしているのか、課題は何なのか、紀州南高梅ブランドの未来像とともに検討したいと思う。

 →紀州南高梅のニューカマーはなぜV字業績回復できたのか?――勝喜梅・鈴木崇文さん(前編)

勝喜梅の鈴木崇文常務

ブライダル市場に進出――コロンブスの卵的な販売チャネル開拓

 それまでのギフト市場とは別世界とも言うべき、高級温泉旅館の客室のお茶菓子として有馬グランドホテルに置いてもらい、大きな成功を収めた勝喜梅であるが、これをきっかけに同社の快進撃は始まった。

 「2008年のことです。友人の結婚式に出席したら、引き出物に何か丸いものをもらったんですよ。『ひょっとして梅干?』と思ったのですが、開けてみたらそうじゃなくて、入浴剤でした。しかし、その瞬間、『ならば梅干を引き出物にしよう』と思ったんですよ」

 しかし、結婚式の引き出物に梅干というのは、意外性が強いように思われるのだが……。

 「いえいえ、結婚式って、出席する側もけっこう疲れるものですよね。それで、帰宅後の疲労回復に梅干は役立つし、それに小腹が空いていることも多いので、軽くご飯を食べるにも、おいしい梅干があるとお茶漬けにできるし、便利じゃないですか。もらった側からすると、『新郎新婦は出席者の帰宅後のことまで気を遣ってくれているのかあ……』と感動しますよね。私はそんな風に考えたのです。

 あと、あえて言えば、松竹梅と言われるように、梅は縁起が良いとされています。それを8個入れると、これまた末広がりでとても良いではありませんか」

 そう言った直後、鈴木さんは、「とにかく売らないといけないので、必死にこじつけているだけですけどね!」と謙遜して笑う。確かに鈴木さんの発想は、最初は当惑するものの、しかし、よくよく考えてみれば、今まで世の中に存在しなかったのが不思議なくらいの、いわばコロンブスの卵のようなものだと気付かされるのである。

 「ただ、梅干というと、どうしても古臭いイメージがあるので、この引き出物に関しては“ウエディングプラム”という洋風のネーミングで商標登録を申請したんですよ。

 これに限らず、弊社の商品は、そういう方向にしています。“伝統”や“秘伝”といったキーワードをウリにしている企業やお店は、片っ端からつぶれている時代ですから、パッケージも和のテイストから洋のテイストに変えています」(下写真)。

勝喜梅のブライダルギフト
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