あなたは何を売っていますか? キタムラのフォトブック事業に学ぶそれゆけ! カナモリさん(1/2 ページ)

» 2010年07月07日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2010年7月2日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


 「ブライダル専用フォトブック発売」。日経MJ6月25日9面に掲載されたベタ記事だ。6月、ジューン・ブライドの季節。発売元はカメラ・プリント店。あまり珍しくもない記事に見える。だが、その裏に隠されている「世の中の動き」と「企業の戦略」には深いものがあるのだ。

 記事のタイトルは「ブライダル用フォトブック キタムラ」だ。利用するカップルの要望に合わせて、専任のデザイナーが画像を加工・編集し、フォトブックを作成するという。提供するのは「株式会社キタムラ」。東証2部上場・関連会社店舗まで含めると1200店以上有し、売上高1400億円という大手企業である。同サービスは、結婚式場同様の仕上がりを、もっと利用者が自由に、安価に利用できるようにと開始したものだ。

 「フォトブック」は同社が近年最も力を入れている事業である。富士フイルムなども参入している事業であるが、キタムラはスピードタイプや携帯カメラ専用ミニタイプ、大判やワンコインタイプなどの様々なバリエーションを展開し、2010年度40億円の売上げを目指しているという。今回の「ブライダル用フォトブック」もその1バリエーションであるというわけだ。

 なぜ、フォトブックに力を入れるのか。それは、同社会長兼CEOの言葉に明らかだ。

 (記録メディアにフィルム時代で撮影した)一生分が入るわけですから、消費者はそのうちに印刷しようと思いながら、そのまま印刷しなくなる“癖” がつく。それは、シャッターを切ってその場で映像を見て満足するという習慣の始まりと私はとらえています。  北村 正志 キタムラ会長兼CEO(最高経営責任者)(日経NB on-line)

 デジカメ、または携帯で撮影した写真をいつ、プリントしたか記憶にあるだろうか。少なくとも筆者は思い出せない。フィルム代がかからなくなって、さらにはメディアの価格もどんどん安くなり、撮影枚数は増大の一途をたどっている。しかし、誰もそれをプリントしない。

 北村会長の言葉にあるように、PCのハードディスクは1TB(テラバイト)という、まさに一生分の画像を蓄積できる容量が1万円台で手に入る。いや、カメラや携帯からPCにデータを移すことすらしない人も少なくない。SDカードは容量が2GB、もしくはSD-HC規格なら16GBのものがカメラには入れられている。そして、カメラの液晶も大型化・高解像度になっており、蓄積されたデータをそのまま見て楽しむことが十分できるようになっている。アルバムを数十冊持ち歩いているようなものだ。

 2010年3月27日付週刊ダイヤモンドによれば、DPE(写真の現像・焼き付けサービス)の店舗数は、ピーク時の3万店弱から実質的に 7000〜8000店にまで減少しているという。現像が不可欠なフィルムカメラは減少の一途をたどり、プリント需要は減る一方。デジタル化という今や多くの企業が直面する難題に、キタムラもまた挑んでいるのだ。

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