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» 2010年07月02日 15時21分 UPDATE

落合多武個展「スパイと失敗とその登場について」 (1/3)

現在ニューヨークを活動の拠点とするアーティスト落合多武氏。現在、個展がワタリウム美術館で開催中だ。繊細な感性と言葉との戯れ、そして猫。

[上條桂子,エキサイトイズム]
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※この記事は、エキサイトイズムより転載しています。


 ニューヨーク在住のアーティスト・落合多武氏の個展「スパイと失敗とその登場について」が東京・青山のワタリウム美術館で開催中だ。

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 1967年生まれの落合多武氏は、2007年水戸芸術館の「マイクロポップの時代」展、その後2009年原美術館の「ウィンターガーデン」が記憶に新しい。

 「マイクロポップ」は、美術評論家の松井みどり氏による言葉で、「マイクロポップとは、制度的な倫理や主要なイデオロギーに頼らず、さまざまなところから集めた断片を統合して、独自の生き方の道筋や美学を作り出す姿勢を意味している」(『マイクロポップの時代:夏への扉』より引用)。

 いわゆるゼロ年代と呼ばれるアーティストの一人である。ユルいドローイングや、言葉を用いた作品、映像、彫刻など、スタイルはさまざま。どの作品にも通底しているのが、「概念のズレ」である。気持ちよくズラされるのである。本人の言葉を交え、作品をいくつか紹介したい。

 2階から4階までの3フロアを使った展示で、各階にテーマが設定されている。2階は「地球の人工物」、3階は「明るい部屋」、4階は「魔術っぽい部屋」。

エキサイトイズム 「建築、彫刻または何か」

 まずは2階から。展示室をぐるりと取り囲むようにドローイングが張られている。描かれているモチーフは、実際に存在する図書館や官公庁のビル、有名建築家による建物、彫刻……などに混じってお墓が出てきたり、刑務所が出てきたり、KGBの本部が出てきたり、盲学校の側に図書館があったりする。その建物が建てられた場所やその建物にいるであろう人びと、お墓の中で眠っている人びと、建物の機能など、いろいろな意味が頭に渦巻き、いつのまにか絵同士を関連付けて見ている自分に気がついた。

 「基本的に自由に見てもらえればいいんですが。例えば、盲学校の側に図書館がある、というのには少し意味があって。この図書館は、ボルヘスっていう小説家が働いていた図書館なんです。彼はその後失明するんですね、そういう意味で関連があるといえばあるし、ないといえばない。地球上にある人工物っていうんですけど、それを最初に思いついて、ちょっと遠くになるとミニマル彫刻もモダン建築も同じように見えるんじゃないかなって思ったんです。建築家のお墓があるんですけど、お墓も人工物ですよね、立方体だったり、特にモダン建築も立方体が多くて、人によっては有名な建築家にお墓をデザインしてもらっている人もいるらしくて。でも建築家本人は自分のお墓は設計できないし」(落合氏)

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 ドローイングの連なりの中に、さまざまなパラドックスが潜んでいる。建築物と墓が並ぶ様子を見ていて、建築物というと地表から上の世界、いわゆる此岸の人間が住む世界を表し、墓は地下世界であり彼岸の世界、人間が人間である以前の世界を思った。それを落合氏に伝えると、こう答えた。

 「そういう見方も面白いね。なんていうんだろう、建物のすぐ背後にあるヒストリーというよりは、もっと大きなところで繋がっている、幽霊みたいな、建物の意味や機能を超えて漂っているものはあるのかも。建築っていうよりも、人工物だということ。ドローイングを描く時、すべて地球上に存在した人工物にしたかった」

 下写真は全部ちゃんと見たら10時間かかるという作品。自分が住んでいるビルの階段をひたすら登るという映像が映し出されている。ニューヨークに住む落合氏が、自分が住むマンハッタンをブルックリン側から眺めた時に山脈に見えたということから始まり、「マンハッタンの自宅の近くにあるビルの階段を登る」という非常に日常的な行為と、エベレスト登頂という特別な行為をつなぐ作品になっている。

エキサイトイズム 「地球上で一番高いところにマンハッタンで行くビデオ」(2009年)
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