生き残るのが難しい……ゴーストライターの世界吉田典史の時事日想(2/4 ページ)

» 2010年07月02日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

 経営者に面談の場を求めたが、回答はなかった。私がA社とB社の役員らに経緯を話したところ、それが本人の耳に入ったようだ。経営者は「まずは双方で話し合うのがマナー」と抗議してきた。来週、弁護士をともない、経営者と会う。このやり方がベストとは言えないが、こうして著者の暴走を防ぐことができると私は考えている。

 残念なことに、私が見てきた多くのライターが泣き寝入りをしている。それには、出版界の事情も影響している。主要出版社Kの編集長にこの話を伝えたところ、こう答えた。「ベテランライターがそういう行為をとっても、こちらは非難しません。双方の間で信頼関係ができ上がっているので。しかし若いライターがしたら、仕事をお願いしないかもしれません。“ライターは下請け、著者はアホでも著者様”だから……」

いちばん損害を被るのがライター

 (2)の「編集者、著者に仕事を理解させる」だが、これも重要である。今回取り上げるのは、法的なトラブルになったときである。

 私の例で言えば、2年ほど前、主要出版社で中小企業の経営者の本を出すことになった。200ページ前後の原稿をまとめ、経営者に送ったが、半年以上回答がない。編集者は経営者を怒らせることを警戒し、催促しなかった。メールを数回送るだけで、電話すらしなかったようだ。

 経営者はほかの出版社からも本を出そうとしていたようで、つまり“天秤”にかけていたのだ。しかし連絡がとれないということは、その間、私に原稿料が振り込まれないということになる。編集者に、弁護士を通して交渉する旨を伝えたところ、次のようなメールが送られてきた。そのまま載せると著作権に抵触するので、わずかに修正した。

 「吉田さんがよく考えたうえでの判断ならば、弁護士を使うことも仕方がないでしょう。ただ、こちらは大変驚いています。こちらも社内の法務部を通して弁護士を立てます」

 音信不通になったのは、経営者である。そして、そのような状態を放置した編集者にも非はあるはず。ところが、居直りともとれる対応である。彼もまた、“ライターは下請け、著者はアホでも著者様”といった言葉を口にしていた。その意識があるので、非を認めることができなかったのだろう。

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