決める前に削ぎ落とす――事業仕分けを仕分けする(2/2 ページ)

» 2010年06月30日 08時00分 公開
[中ノ森清訓,INSIGHT NOW!]
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ムダを削る方法

 地から自動的にお金を吸い上げられる、足りなくなれば簡単に借金ができる仕組みの為政者、行政の方々には分からないかもしれませんが、ムダを削るのは実は非常に簡単なことです。方法はいくらでもあります。

 例えば、決めた範囲の中で予算を組む、予算にキャップを設けることです。私たちのようなベンチャー企業では、資金が潤沢にあるわけではないので、必要なマーケティングや事業開発もままなりません。このようなベンチャーにお金を貸してくれる銀行はありませんし、ベンチャーキャピタルですら、「成功しそうな」ではなく、「成功した」ベンチャーにしかお金を出さない日本では、資金調達すらままなりません。

 このような環境では、最初から「予算には制限がある」という前提の下、使える範囲の中で、必要なものであっても火急でないものは削り、お金やスタッフの時間の最大活用に知恵を絞ります。使う前に、ムダなモノなど発生させている余地はまったくないのです。財政が苦しくなると、すぐどうやって国民の負担を増やすかということを考えるのとは、根本的に考え方が異なります。

 キャップ制は非常に簡単に導入できる方法ですが、これだと必要なものも含めた一律の予算カットや、本来ならば廃止するものまで残ってしまうというデメリットがあります。

 そうしたキャップ制のデメリットを補うものに、ゼロベース予算という考え方があります。ゼロベース予算は文字通り、予算策定において過去の実績を白紙とし、その時の戦略に基づき、本当に必要なものに絞って、ゼロから予算を策定する手法です。

 名前は忘れてしまいましたが、GEにはセッションIIと呼ばれる中期経営計画の前に、予算どころか、ビジネスプロセス、これまでの組織や工場の存在も白紙にし、「もし、今から新規に今携わっているビジネスをやるとしたら、どのようにビジネスプロセス、サプライチェーンを構築するか」と考えさせるセッションがありました。いずれも目的は、「過去のしがらみにとらわれることなく、現在ベストな方法で事業を行うにはどうすれば良いのか」を考えさせることによって、予算や組織に含まれているムダを洗い出すというところにあります。

 ただ、予算の策定段階では、どのような方法、仕様で、誰がどんな会社を使ってということが検討されておらず、これらの方法でも、予算執行における細かいマネジメント、チェックは働きません。予算の執行の過程で、これらの詳細が詰められ、方法や仕様、取引先などが決められていきます。

 事業仕分けで見てきたように、事業におけるムダは、目的そのものの誤りを除けば、「方法のムダ」「過剰仕様」「取引先の選定や管理方法」など、この過程で多く生まれます。つまり、ムダをなくしていくには、予算の策定段階における管理では不十分で、予算の使途を明確化し、執行していく過程でムダを削ぎ落とすマネジメント、チェック機能が組織には不可欠なのです。

 契約書を交わすまで、発注書を発行するまでならば、無数のオプションが事業主体、買い手企業にはあります。仕様に潜むムダがあれば、いくらでも削ることが可能です。もっとふさわしい取引先が見つかれば、簡単に切り替えることができます。ところが、一度、契約書や発注書を交わしてしまうと、コストは確定し、それを変えるには手配した材料や部品、設備への投資など相手にも損害が発生し、一気に難しくなります。

 調達・購買の手法の1つに開発購買と呼ばれるものがあります。これは、調達→設計→開発→企画と事業・製品・サービス開発プロセスの川上になればなるほど、採用する素材や技術、仕様やサプライヤの自由度が高く、コスト低減の余地も大きいことから、将来、量産段階に入った時の購買・オペレーションコストを開発プロセスの早い段階から考えて、企画・構想を練っていくという手法です。俗に「コストの8割が設計段階までに決まっている」と言われます。開発購買も、最終的な予算執行の決定をする前にムダを削ぎ落とす手法の1つです。

失われた30年、40年にしないために

 このように事業に潜むムダをなくす方法はいくらでもあります。大切なのは、これらの方法を、会計数字上に現われたコストを見て、もぐら叩き的なコスト削減にあわてて使うのではなく、ムダが発生してしまい、解消が困難になるもっとずっと前、予算を使う段階までにこれらの方法を実施、あらかじめムダを削ぎ落としてしまうことです。

 正直に申し上げて、なぜ日本ではこんな当たり前のことが行なわれず、ムダばかり許されるのか、よく分かりません。「小手先の対処療法ばかりで抜本的対策には逃げ腰」「現場主導でマネジメント不在」などいくつかの要因が考えられるのですが、そうした問題に正面から取り組まなければ、いつまでたっても問題は解決しません。

 まだ、そうした問題を放置しておくだけの余裕が日本にはあるのかもしれません。しかし、このままでは、失われた20年が30年、40年になるのはあっという間です。(中ノ森清訓)

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