「デパクロ」の功罪と百貨店の明日を考えるそれゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2010年06月30日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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自助努力による相乗効果創出

 もう1つの顧客から収益を上げる方法が「クロスセリング」である。これは、「関連商品の販売」によって売り上げ・利益を増すのだ。ファストファッションの来店客が食品売り場に流れて売り上げが上がるということも、百貨店全体としてはクロスセリングが達成できているわけだが、どこまでそれを狙ってやったのかは疑問だ。

 本来的には、衣料・雑貨売り場での回遊によるクロスセリングを図るべきであり、衣料品売り場をパスして食品売り場に流れることが続くなら、ファストと既存店とのカニバリ(食い合い)が顕在化する懸念も考えられる。

 その意味では、衣料・雑貨売り場での新たな回遊ルートを構築する動きが、松坂屋と同じJ・フロントリテイリング傘下の大丸で始まっている。

 その1つが、大丸心斎橋店と京都店で展開されている「うふふガールズ」だ。従来顧客でない若年女性向けの複合ブランドによる売り場展開が、従来にない商品構成と売り方でターゲット年齢にとどまらない幅広い女性層の支持を集めて活況を呈しているという。

 もう1つが小規模インディーズ系デザイナーズブランドを扱うセレクトショップの誘致だ。6月11日付日経MJの記事によると、上記「うふふ」と同じ大丸心斎橋店の北館に2月、古着風や民族衣装風など個性的な品揃えで異彩を放つ店が開業した。近年のインディーズを扱うセレクトショップの出世頭、ステュディオス(東京・渋谷)の心斎橋店だ<という。その取り組みは「メジャーブランドだけではいつ飽きられるか分からない」(MDマネージャー)という若年層対策の問題意識からである。

 百貨店自らが売り場を作る。いわば「売り場の魅力作り」という“きほんのき”ともいう取り組みによって、従来にない顧客を取り込み、ファン化して売り場内の買い回りを促進。「クロスセリング」を達成させることが欠かせないのである。

顧客の囲い込みはどうか?

 もう1つ、顧客から収益を上げる方法がある。いわゆる「顧客の囲い込み」を中心とした、「アフターマーケティング」だ。顧客との関係性を構築して、商品を購入した後のサービスの提供などによって、収益を上げる。

 例えば6月9日付日経MJの記事は、こんな例を紹介している。三越日本橋本店(東京・中央)にサービス関連の専門コーナーが誕生した。「暮らしのサロン」という名称で、衣料品の寸法直し、クリーニング、家事の支援、金融相談の4店を1カ所に集めた。買い物ついでに立ち寄れる利便性が受け、売上高は計画を大きく上回っている。

 しかし、価格は決して安くはない。クリーニングのスーツは6300円、ジャケットは4275円から。食事の宅配1セット(朝・夕食)2940円だ。利用顧客は、同店の主要顧客層である中高年であり、物を大切にする傾向が追い風と見ている。そして、商品を売るだけではなく、生活全般に関わるとの狙いであるという。

 決して安くはないサービスを利用してくれる大切な顧客に対し、モノを売るのではなく、コトとしてのサービス提供によって、より強固な囲い込みを図りつつ、「アフターマーケティング」による収益を上げる。ホスピタリティーは百貨店本来の得意技であるはずだ。重要顧客ベースを堅持し、収益を上げる方法として、「物売りの呪縛」を解き放って、サービスに目を向けた取り組みの比重を上げるのは、非常に重要なことであると考えられる。

 「このままでは若年層が足を運ばなくなる」という危機を脱し、話題を創出する上では「デパクロ」は大いに貢献したといえるだろう。しかし、百貨店の事業全体に対する波及効果や、将来にわたる貢献については疑問符がともり続ける。そうした、他人頼みよりも、自社での展開や発掘、顧客層への厚い働きかけで収益を改善する取り組みが重要なのだと言えるだろう。

 まだまだトンネルの出口は遠いかもしれないが、自助努力で見えてきた明かりに向かって邁進し、百貨店には輝きを取り戻してほしいと願う。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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