「クルマを走らせる楽しさ」へのこだわり――マツダ・アイドリングストップ開発の哲学i-stopを開発したエンジニアに聞く(1/2 ページ)

» 2010年06月29日 08時00分 公開
[岡田大助,Business Media 誠]

 環境への意識の高まりから、自動車産業にもエコカーの波が押し寄せている。マツダは2009年10月に開催された第41回東京モーターショーで「マツダSKYコンセプト」に基づく次世代直噴エンジンを発表。また、徹底的な軽量化を図ったコンパクトカーコンセプト「マツダ 清(きよら)」や水素ロータリーエンジンを搭載したプレマシーなどを参考出展した。

マツダ 清(きよら) マツダ 清(出典:マツダ)

 その根底にあるのは、「見て乗りたくなる。乗って楽しくなる。そしてまた乗りたくなる」といった“走る歓び”を追求するZoom-Zoomという哲学。2007年には「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言」を行い、2015年までに平均燃費の30%向上(対2008年比)を実現するという。

 今日、マツダでは「サステイナブル“Zoom-Zoom”」を木で表現している。大樹を育てるには、まず幹を太くしていき、そこから枝ぶりを美しく育てる。幹がクルマに乗って楽しいというZoom-Zoom、枝が安全性能や環境にやさしいクルマづくりだ。

アイドリングストップと、クルマを走らせる歓びは両立できる

 「あくまでも、マツダのクルマづくりの中心はZoom-Zoomです。これはマツダのDNAといってもいい。“クルマを走らせることが楽しいね”という部分が大きくなっていけば、それに見合うように安全面と環境面を伸ばしていく。これが基本理念です」と語るのは猿渡健一郎氏。パワートレイン開発部門で、直噴エンジン「MZRエンジン※」の開発リーダーを務めた人物だ。

※マツダの次世代直4ガソリンエンジンシリーズ。2002年発売の初代アテンザから順次搭載され、Fordグループのメーカーにも供給された。

 エンジンの直噴化は、最近のトレンドだ。一般的に、ガソリンと空気の混合気の圧縮比が高くなれば、出力や燃費は有利になる。しかし、圧縮比を高め過ぎると、ディーゼルエンジンのように自己着火(自然発火)を引き起こし、エンジンを破損する可能性がある。また、圧縮すればするほど、発生する熱が大きくなる。

 直噴エンジンは、燃焼室の中に微細な燃料を直接噴きつける。その燃料はすぐに気化するため、気化熱によって燃焼室を冷却できる。従来型エンジンよりも圧縮比を高くできるため、小型でも十分な出力が期待できる。

猿渡健一郎 マツダ・猿渡健一郎氏。2000年からアテンザ/Mazda6 MZRエンジン開発リーダーを務め、2009年5月からプログラム開発推進本部アクセラ担当主査

 猿渡氏が次に手掛けたのは、アイドリングストップ機構「i-stop」だった。2009年6月に登場したアクセラに採用され、その後、ビアンテにも搭載された。

 「i-stopの開発において、“エコカー”を作ろうと思ったことはまったくありません。正直なところ、“エコカー”という言葉には少し抵抗を感じています。環境に気遣って、そおっと走るクルマ、耐え忍んで運転した結果、環境に優しくなるクルマを“エコカー”というのであれば、それは違うのではないかと。だから、i-stopを搭載したクルマは、乗ってみて非常に楽しいし、なおかつその結果として環境に優しいというものを目指しました」(猿渡氏)

 環境にやさしいクルマ作りには2つのポイントがあるという。1つは効率改善。エンジンの燃焼改善やトランスミッションの伝達効率の改善、タイヤの走行抵抗改善などがこれにあたる。もう1つは、ムダの削減や回収。ハイブリッド車に搭載された回生ブレーキ(減速回生)は、これまでムダにしていた減速時に発生したエネルギーを電気に変えて蓄えるものだ。

 i-stopは、エンジンを回す必要がないとき、つまりクルマが止まっているときにエンジンを止めてムダを回収する。また、エンジン出力の効率がよい直噴エンジンで実現する。

i-stop マルチインフォメーションディスプレイ(出典:マツダ)

 実際に、i-stopを搭載したアクセラセダン(AXELA Sedan 20E/5速AT)を借りて、金曜日夕方の都内を走ってみた(2010年6月25日16時40分〜18時)。すると、1時間のうち約23分はアイドリングストップをしている。マルチインフォメーションディスプレイに表示されるリアルタイム情報によって、これまでどれだけガソリンをムダにしていたのかを痛感させられた。

 i-stopの機能は非常にシンプルだ。クルマが止まったら自動的にエンジンが止まる。ドライバーがクルマを発進させようという何らかの動作をしたら自動的にエンジンがかかる。それだけだ。しかし、“それだけ”を実現するために、マツダは異常なほど検証を繰り返し、必要ならばと量産1カ月前に仕様を変更した。

 「アイドリングストップによって、ベースとなる走る歓びが損なわれてはダメです。そのポイントは大きく2つ。エンジンをなるべく素早く、スムーズに再始動させること、そして、エンジンが勝手に止まったり、かかったりすることに対する不安、違和感を払拭することです」(猿渡氏)

 例えば、交差点での右折待ち。対向車の流れを読んで、「いまだ!」とクルマを発進させるときに、一瞬でもタイミングがずれてはならない。アイドリングストップの挙動に対して不安がつのってくると、早めにブレーキを緩めるなど、アイドリングストップを使わないような運転をするようになるからだ。そのため、i-stopではハンドル操舵角45度以上の状態で停止した場合に、アイドリングストップしない設定にした。

i-stop開発コンセント(出典:マツダ)

  • 普通のクルマを運転しているような安心・快適なシステムとすること
  • エンジンの停止と再始動における音、振動、違和感を、極限まで低減すること
  • エンジン停止状態から再始動までの時間を素早くかつ常に一定に保つこと
  • エンジン停止と再始動を実現する条件が、自然な運転操作の中に含まれること
  • 機能に対して、乗員が自然に信頼をおけるものであること
  • 車両価格への影響を最小限に抑えられる機構であること

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