合意を目指すか、差異を際立たせるか――2つの議論の方法ちきりんの“社会派”で行こう!(1/2 ページ)

» 2010年06月28日 08時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]

「ちきりんの“社会派”で行こう!」とは?

はてなダイアリーの片隅でさまざまな話題をちょっと違った視点から扱う匿名ブロガー“ちきりん”さん(Twitter:@InsideCHIKIRIN)。政治や経済から、社会、芸能まで鋭い分析眼で読み解く“ちきりんワールド”をご堪能ください。

※本記事は、「Chikirinの日記」において、2008年5月16日に掲載されたエントリーを再構成したコラムです。


 “議論の方法”には、まったく異なる2つの方法があります。1つは「合意点を探るための議論方法」、もう1つは「自分と相手の主張の差を明確にするための議論方法」です。

 共同で事業を運営している仲間との議論であれば、最初のタイプの議論を行うことになるでしょう。しかし、異なる政党の党首と党首が討論する場合は、必ずしも合意は必要でなく、その主張の差が有権者に分かりやすい方が良いので、後者の議論方法の方が適切となります。

 先日、テレビの討論番組で、A氏とB氏が議論していました。A氏は「正社員の既得権益を守るために、非正規雇用で働いている人が犠牲になっている」と主張。次にB氏がそれに反論する形で、「正社員、非正規雇用の人という分け方をすること自体が間違っている。正社員でもひどい条件で働かされていて、健康さえ守れない人がたくさんいる」とおっしゃっていました。

 この議論を、採るべき労働政策案についてA氏とB氏が合意するために行うのであれば、2人の主張を次のように整理すれば効果的です。

 「働いている人を、

(1)大企業の正社員で、整った労働条件のもと高い給与をもらっている“大企業の正社員”

(2)立場は正社員ではあるが、残業代もなしに長時間労働を強いられ、実質的には最低賃金より低い給与で働かされている“名ばかり正社員”

(3)非正規雇用で仕事の安定性さえ持てない人、すなわち“非正規雇用の労働者”

の3種類に分けて議論しましょう!」

 こう整理すれば、A氏とB氏の合意点を見つけることがとても簡単になります。つまり、A氏は「大企業の正社員の好待遇を守るために、(3)の非正規雇用の労働者が割を食っている」と言っており、B氏は「割を食っているのは、非正規雇用の労働者だけではなく、(2)の名ばかり正社員も同じです」と主張しているわけです。(1)(2)(3)と整理すれば、2人の意見に対立点はなく、双方とも相手の意見に同意できるでしょう。

 このように「合意するための議論方法」を採用すれば、一見対立しているように見える意見でも「では、次は『名ばかり正社員と非正規雇用の人をどう助けるか』という方法論について議論しましょう」という形で、次の段階の議論に進められます。

 一方、2人の主張の差異を明確化するのが議論の目的であるなら、「何が問題視すべき課題なのか?」という議論設定にすればいいのです。そうすると、A氏が問題視しているのは「正規雇用と非正規雇用の格差」、すなわち「雇用形態問題」であるのに対し、B氏は「雇用形態に関わらない、劣悪な労働条件が問題」と主張していると分かります。こうなると、この問題をどちらの視座からとらえるべきか、はっきりと白黒つけることが求められます。

 このように議論には、「合意点を探るための議論方法」と「自分と相手の主張の差を明確にするための議論方法」があるわけですが、「どういう場合にどちらの議論方法を選択すべきか」が非常に重要です。

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