ソニー「背景をぼかす」のとってもシャープな切り口それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2010年06月23日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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ソニーのお家芸

 この超小型カメラカテゴリーは、従来の一眼レフとは違い、コンパクトデジカメからの買い替え層という新たなユーザーを取り込んで大きく成長している。前掲の東洋経済の記事では、一般的に一眼カメラの女性比率は1割といわれるが、超小型では3割に上ると分析、料理写真の撮り方講座に女性が集う様子を紹介している。

 「背景ぼかし」の機能は、αだけのオリジナル機能ではない。例えば、筆者も所有している「キヤノン・EOS Kiss X3」。ミラーレスではなく従来型の光学ファインダータイプではあるが、エントリーモデルの1つだ。撮影モードを選んで、おおよそのぼけ具合を段階的に設定できる。しかし、少々手間がかかることと、液晶ファインダーでそのぼけ効果を見ながら撮影できるわけではないので、本当の初心者が使いこなすことは難しいだろう。

 ソニーαは、多くの初心者がやってみたかったことを、とにかく手軽に実現できることに注力している。その1点をCMで、浅野忠信と北川景子に実演させて、繰り返し繰り返し訴求している。実はほかにも、「世界最小サイズ」「ハイビジョン動画撮影機能」「3次元(3D)写真の撮影機能」など盛りだくさんなのだが、まったく触れていない。「ぼけ」という1点だけで、「手軽に持ち歩けてプロのような写真が撮れる」というメッセージを実現し、一眼カメラへの買い替えを検討しているユーザーを取り込む戦略だろう。

 この初心者に使いやすい「背景ぼかしコントロール」には、ソニーファンにとっても、「やったな!」と思わずうなるポイントがある。

 ソニーのいくつものハードウエアに搭載されているユニークな機能の1つが「ジョグダイヤル」だ。

 古くは1980年代半ばにソニーのベータマックス型ビデオデッキの特徴として、ホイールをクルクルと回してテープのコマ送りをしたり録画予約ができたりする機能として採用された。以来、「ソニーといえはジョグダイヤル」的な機能として市場に認知され、パソコンVAIO、PDA、電子辞書、ウォークマン、ミニコンポ、カーナビなどに採用。携帯電話では今は亡きツーカー向けの端末にサイドジョグとして搭載されて「クルクルピッピ♪」のコピーで親しまれた。

 昨今、ダイヤル型のコントロール装置は他社の機器でも採用しているものがあったり、ソニー製のハードウエアでも必ず付いているという状況ではなくなったりしている。しかし、直感的な操作・使いやすさが求められるシーンでお家芸を投入して、ここ一番の勝負をかけているのは、「自社ならではの提供価値=Value Proposition」の示し方として秀逸だといえるだろう。

 競合が厳しい市場に参入するなら、「訴求ポイントを徹底して絞り込む」「ターゲットニーズの実現に、“自社ならではの提供価値”を用いる」ことが重要だ。ソニーαNEX−5・NEX−3の展開は極めてシャープなのである。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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