いつの日か消えるかもしれない……美しき氷河松田雅央の時事日想(1/3 ページ)

» 2010年06月22日 11時43分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

著者プロフィール:松田雅央(まつだまさひろ)

ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及び欧州の環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」、「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ


 「氷の河」と書いて氷河となるが、間近で見るそれはまさしく大雪原である。紺碧(こんぺき)の空、白い雪、切り立った黒い岩肌のコントラストはこの世のものとは思えぬ美しさだ。しかしながらアルプスの景観を象徴するこの光景も地球温暖化によって、いつの日か消えてしまうかもしれない。

 前回に引き続き、ユングフラウ地方にある欧州最大の「アレッチ氷河」を題材として、氷河後退と温暖化の様子を追ってみよう。

ユングフラウヨッホから見たユングフラウフィルン氷河。この先でアレッチ氷河へとつながる

140年間で「−3000メートル」

 スイス南部に位置するアレッチ氷河は長さ23.6キロメートル、総面積約120平方キロメートル、最も深い部分の氷厚は900メートル、水の総重量は270億トン。欧州のみならずユーラシア大陸西部においても最大の氷河である。

 氷河を監視している研究組織「スイス・氷河計測ネットワーク」のデータによれば、スイスにある多くの氷河で縮小(後退)がはっきり現れておりアレッチ氷河も例外ではない。

 図1は1870年から2009年までの観測データをまとめたもので、1年間に氷河の先端がどれだけ縮小したか(オレンジ色の棒グラフ、左軸、メートル)とその累計(線グラフ、右軸、メートル)を示している。年によって縮小量はバラついているものの、10〜30年に一度大きな縮小が起き(例えば1880年代)、その発生が年代を追うごとに頻発するようになってきたことが分かる。とにかく減少傾向は一目瞭然で、線グラフが示す通りこの140年間縮小が止まったことはない。1870年代に比べ、アレッチ氷河はおよそ3000メートル縮小している。

(図1、出典:schweizerischen Gletschermessnetz)
       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.