書いても本にならない……ゴーストライターという仕事の現実吉田典史の時事日想(2/4 ページ)

» 2010年06月18日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

 私は、口ごもった。ゴーストライターを起用することを求められるとは、考えていなかったからだ。そばにいた上司が「電話を切れ」とささやく。そして「いまはゴーストに書かせる連中が増えている。依頼するときには、そのあたりに気をつけろ」という。そこでは編集者がゴーストライターになり、作家の話したことをあたかも本人が書いたかのようにまとめていた。

 私は「口述」、つまり、書き手が書こうとすることをまず話してみて、それをあとから文章にまとめることを否定はしない。著名な作家の間では、少なくとも大正時代のころから行われている。

 問題は、そのプロセスだ。今は責任の所在があいまいになっている。言い方を変えれば、「著者主導」ではなく、「編集者やゴーストライター主導」と思える。ビジネス書を担当する15人ほどの編集者たちに、このあたりのことを確認した。すると「自分が話したことをまとめてくれ」と依頼してくる著者の中には、“丸投げ”をしてくるケースが目立つという。

 こういうところから、パクリの問題が起きるのではないだろうか。事実、ビジネス書の編集者と話すと「書いた本人が誰なのか分からない」とか「その文章の著作権の所在がハッキリしない」といったことが笑い話になる。中には、ほかの出版社と実際、パクリだとして争いになったこともあるという。

 冒頭の女性編集者は、文芸誌の編集に関わることに誇りを持っている。「文芸誌では、こういった例は少数であってほしい」と話していた。会社の中では筋を通すと、生きにくいが、どうか乗り越えてほしいと私は思った。

著名な経営者の代わりに、ゴーストライターが書く

 もう1つのケース。中堅出版社に勤務する30代の男性編集者は、ビジネス書を担当している。この編集部では、会社の経営者を著者に仕立てて、ゴーストライターを起用し、書くこととなった。ところが、当初からトラブルが起きた。

 まず、経営者は始めの打ち合わせに20分ほど現れただけ。それ以降の取材(1回の取材は約2時間、これが5回に及ぶので計10時間)には来なかった。信じ難い話だが、編集者と会社とのやりとりをまとめた書類に目を通すと、信ぴょう性が高いと私は感じた。

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