「海面上昇でツバルが沈む!」の誤解――センセーショナルな報道の罪(1/2 ページ)

» 2010年06月18日 08時00分 公開
[中ノ森清訓,INSIGHT NOW!]

著者プロフィール:中ノ森清訓(なかのもり・きよのり)

株式会社戦略調達社長。コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供している。


 米国とカナダのPETプラスチックの業界団体であるNAPCORが、長い間求められていたリサイクルPETレジンのライフサイクルインベントリー(LCI:製品の製造、輸送、使用、廃棄といったライフサイクルの各段階でどれだけの環境負荷を掛けているかの明細)データについての新しい調査結果を発表しました。

 調査によると、リサイクルされたPETプラスチックのレジン(樹脂)を容器の製造過程で用いることで、例えば1ポンドのリサイクルPETフレークの場合、PET容器製造に必要なエネルギー量の84%を削減、温暖化ガス排出量の71%を削減と、使用エネルギー量と温暖化ガス排出量を大幅に削減できるということです。

 この効果を2008年の米国でのPET容器のリサイクル量に当てはめると、同量の未使用のPETレジンを使った時に比べ、米国の平均世帯で31万7000戸分の年間使用エネルギー量に相当する約30兆Btu(英熱量)のエネルギー使用が削減されていたことになるそうです。この使用エネルギー量削減に伴う温暖化ガス排出量の削減は1100万トンのCO2を削減することを意味しており、18万9000台の自動車の排出量に相当するということです。

ツバルの面積が増えている

 ちょうど、この環境負荷削減において正しい意思決定ができるよう、科学的に地道にデータを積み上げるニュースが飛び込んできた時、それと対をなすかのようにまったく別の情報が入ってきました。

 「ツバルの面積が増えている」

 ツバルは温暖化による海面上昇の影響で沈みゆく国とされ、政治家や芸能人が大挙して押し寄せ、「ツバルを救え!」と大号令がかかっています。そのツバルの面積が、欧州からの援助機関で運営されている研究機関SOPACの中心的研究者アーサー・ウェッブ氏によると、1984年から2003年までの20年間で17島の面積は、海岸線の移動などによりヘクタール近く(2.8%)増えているとのこと(出所:「私がツバルで見た真実」イースクエア会長木内孝氏、オルタナ18号)。

 環境省職員から地球環境戦略研究機関(IGES)に出向している岡山俊直氏によると、2009年時点までのツバルの海岸侵食や内陸浸水は、地球温暖化による海面上昇以外の要因がほとんどという。

 ツバルにおける海岸侵食は、砂浜の砂が波によって流される自然現象であったり、第2次大戦時に米軍が埋め立てた土地が削られているだけとのこと。特に、波の作用による砂浜の侵食は、一方で島の別の場所では砂を堆積し、砂浜を広げている。つまり、海岸が侵食されているのではなく、波の作用によって、島の形が変わっているということです(面積としては上記から増えていることがうかがえる)。ツバルにおける内陸浸水は、100年前から観察されている事実。現在、浸水がひどい場所はかつて湿地だったところに、人口増加によって、そこに人が住まざるを得なくなったことが要因とのことです。

 環境省もこれらの事実を把握しており、2009年にまとめられた報告書では、「問題は、決して『海面上昇による水没』という単純なものではない」「環礁州島(ツバル)の危機はグローバル・ローカル両方の環境ストレスが複合したものであり、現在発生している問題は主にローカルな要因によるものである。ローカルな要因によって、今世紀予測されている地球規模変動に対して脆弱性の高い州島になってしまっている」とまとめています(環境省地球環境研究総合推進費終了研究成果報告書:環礁州島からなる島嶼国の持続可能な国土の維持に関する研究;平成15年度〜19年度、出所:「ツバル写真集・地球温暖化でツバルは沈むか?」)

 簡単に言うと、ツバルの現状は決して海面上昇という「グローバルな要因」によるものではなく、人口増加やそれに伴う生活排水やゴミの投棄などの環境汚染という「ローカルな要因」が、有孔虫やサンゴなどのツバルの砂浜を形成する生物を殺してしまい、砂が生成されなくなり、海岸浸食が進みやすくなっており、将来海面上昇が進んだ場合には、その影響を受けやすくなっているということです。

 つまり、ツバルの現状は、人為的な環境汚染が自らの生活を脅かす警鐘ではありますが、海面上昇による社会への影響ではないということです。

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