予想外に難航した「Minolta-35」の革の張り替え-コデラ的-Slow-Life-

» 2010年06月18日 08時00分 公開
[ITmedia]

 動作はするが、張ってある革がボロボロの「Minolta-35」。いくら写るとはいっても、外観を何とか見られるようにしないことには、ジャンクだということがまる分かりである。

 革の張り替えは、これまで何度もやったことがある。まずはジッポオイルをスポイトで隙間から流し込みながら、接着剤をはがしつつ革を丸めるようにして、はがしていく。

 いくら捨てる革だといっても、綺麗にはがさないと、あとあと大変になる。というのも、微妙なカーブや穴を開ける位置など、オリジナルの革を型紙代わりにしながら新しい革をカットしていかないと、現物合わせで実測しながらではあまりにも大変すぎるからだ。

 しかしこのMinolta-35の革は、一筋縄ではいかなった。そもそも革の厚みがものすごく薄いのに加え、長い年月の末に完全に乾燥しきっており、いくらオイルで湿らせても、まるでパリパリに乾燥した海苔のように粉々に割れていく。もう全然形を保ったままはがせないのである。しかも張り付けてある接着剤と革が同化してしまって、もう革なのか接着剤のカスなのか分からなくなってしまっている。

まるで乾燥海苔のようにパリパリの革

 こうなってくると、もう力業である。やってることは焦げ付いたフライパンを洗うのと大差ない。小型ドライバーを使って、ごりごりとこそぎ落としていく。それはカメラを掃除するといったデリケートな感覚はみじんもない作業である。

カメラの修理とは思えないゴミの量

蘇る当時のイメージ

 幸いにして、裏も表もそれほど複雑な形をしていなかった。端の方が丸く巻き込んでいるとはいっても、展開すればただの長方形である。まずは表側の寸法を測り、張り付けていく。ストラップリング部分は1ミリほど切り込みを入れるだけで、うまくかわすことができた。

革がシンプルな形で助かった

 こうして新しい革を張ってみると、なるほど軍艦部の複雑なたたずまいといい、見るからに立派なものである。レンズは急きょ新宿で買って来たFEDの52mm/F2.8だ。まさに1950年代の日本の庶民があこがれてもあこがれても買えなかったLeicaのイメージがそこにある。

イメージはライカ

 Minolta-35は1953年以前の設計なので、おそらく1940年から発売されていたLeica IIIcのデザインを踏襲しつつ、独自にセルフタイマー機構を付けたものと思われる。一方のLeicaでは、1954年発売のLeica IIIfからセルフタイマーが装備された。コピーモデルのほうが若干進んでいたわけである。

 いまも昔も、このあたりは変わらない。コピー天国といわれる中国では、AppleやSONYのコピーモデルがあふれており、ときおり日本にも入ってくる。デザインは似ているが、本気で本物を偽っているわけではなく、人気のある商品にあやかったデザイン、とでもいうのだろうか。そして機能はというと、本物よりも若干多くなっている。

 つまり60年前に日本がさんざんやってきたことを、いまの中国がやっているわけである。中国製の類似品を見て、「パクられた」と思う感覚は、実は60年前にドイツが日本に対して思った感情ではなかっただろうか。当時の日本は敗戦からの復興のため、「追いつけ追い越せで必死だった」といういい訳もあるかもしれない。だがそれはドイツとて同じだったし、時代を超えて中国とて同じことではないか。

 日本はいま、中国に対してコピーモデルの流通拡散を防止するための策をろうしているが、カメラの歴史を知っていくと、どの口がそれをいうか、という気がしてしまう。

小寺 信良

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映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。


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