公務員の“高給取り”をどうとらえるか?――人事コンサルタント、前田卓三さん(前編)嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(1/5 ページ)

» 2010年06月12日 00時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

嶋田淑之の「この人に逢いたい!」とは?:

 「こんなことをやりたい!」――夢を実現するために、会社という組織の中で、あるいは個人で奮闘して目標に向かって邁進する人がいる。

 本連載では、戦略経営に詳しい嶋田淑之氏が、仕事を通して夢を実現する人物をクローズアップしてインタビュー。どのようなコンセプトで、どうやって夢を形にしたのか。また個人の働きが、組織のなかでどう生かされたのかについて、徹底的なインタビューを通して浮き彫りにしていく。


 昨秋以来の「事業仕分け」は、日本の公的組織にいかにムダが多いか、その一端を具体的に示し得た点では評価すべきものであったろう。しかし、その一方において、「では、そうした仕分けの結果、本当にムダが減るのか?」「本当に日本は良くなるのか?」という点に関しては、まだまだ不透明なままではないだろうか。

 そうした国民注視の仕分け騒動をよそに、国会の場では日本全体の今後の浮沈に関わる、ある重要な論議がなされていた。それはバブル崩壊以降、日本がなすすべもなく停滞し、国際的なプレゼンスを低下させている要因として、中央官庁や地方自治体、民間企業など、日本の大多数の組織が「人」基準で運営されていることを挙げ、「1日も早く、『仕事』基準へと移行すべきである」という論議だ。

 2月2日の国会の代表質問でみんなの党の渡辺喜美代表が提起したことに端を発する議論であるが、この仕事基準の概念と、その実現ツールを構築し、実績を挙げてきたのが、今回の主役である前田卓三さんだ。

 前田さんは、慶応義塾大学卒業後、ニューヨークとロンドンに留学。外資系企業数社で活躍し、経営コンサルティング会社プライスウォーターハウスクーパースGHRS(現プライスウォーターハウスクーパース)の会長などを歴任後、現在、ヒューマンキャピタルソリューション研究所の代表を務めている。

 日本を代表するグローバル企業はもとより、地方の中小企業への仕事基準導入を通じて、それら企業の経営を成功へと導き、現在は中央官庁や地方自治体の改革を視野に、日本再生への端緒を作ろうと奮闘中である。

 そこで、まず前編では、前田さんの理論の概要をできるだけ分かりやすくご紹介し、後編ではこの理論を構築するに至った経緯から、その導入事例、そして、今後、その理論を通じて日本を再生してゆくに当たっての展望や課題などについて明らかにしたい。

日本の停滞は人基準が原因、偽装・隠ぺい事件はその典型例

 「現在の日本の停滞の要因は、日本の企業や中央官庁、地方自治体の組織運営が、人基準で行われていることにあります。

 人基準とは、『年功』『学歴(学閥)』『家柄(閨閥)』『上司と部下の人間関係』『国籍(人種)』『宗教』『性別』といった人間の属性に基づいて評価する考え方です。分かりやすく言えば、『人をレッテルで評価する』ということですね」

ヒューマンキャピタルソリューション研究所代表の前田卓三氏

 確かにバブル崩壊後、日本では年功序列や終身雇用制が崩壊し、実力主義の時代にシフトしたかのように言われたものの、上記の諸要素から完全に自由な組織を見出すことは、非常に難しい。

 「そうなんですよ。こうした人基準には、透明性・公平性・合理性が欠けているので、役所にあっては、税金のムダ使いとその結果としての財政逼迫(ひっぱく)、企業にあっては、社員のモラール低下や生産性の低下、その結果としての国際競争力の喪失などの問題を生み出しています。

 ここ数年、食品業界を始め、いろいろな業界で発覚している偽装・隠蔽事件なども、人基準がもたらした悪しき例でしょう。

 経営者以下みんな、社内しか見ていないから、こういうことになるんです。密室の中で意思決定がなされ、創業ファミリー(あるいはワンマン経営者)とその顔色をうかがう一般社員という特殊な人間関係の中で、偽装・隠蔽が行われるケースが多いですよね。

 そして、それをバレずにうまくやりおおせた社員は出世しますし、逆に正論を述べて反対するような社員は出世もできず、時には組織から排除されます。

 こうした傾向が、日本社会の随所に見られるようになって、社会全体の活力にも大きな影響が出ています。本来であれば評価されてしかるべき価値ある意識や行動が無視され、つぶされることで、若い世代から夢を奪い、社会全体に言いようのない閉塞感を生み出しています」と前田さんは嘆息する。

 「日本の戦後復興や高度経済成長などの発展途上の時期には、人基準にも一定の有効性があったかもしれませんが、現代のように、グローバル市場で熾烈(しれつ)な競争環境に置かれている中にあっては、欧米先進企業(特に北欧と米国)が採用しているような仕事基準でないと、もはや戦えません。

 アジアでも、中国や韓国のグローバル企業は、仕事基準にシフトして競争力を強化しています。中国・韓国で仕事基準になっている企業の数は、日本の仕事基準企業よりもずっと多いと思いますよ」

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