なぜ出版社はゴーストライターを使い続けるのか?吉田典史の時事日想(2/4 ページ)

» 2010年06月11日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

管理職の言い分と、元役員の言い分

写真と本文は関係ありません。

 このくだりについては、その編集部の了解をとるために、記事にする前に原稿を見せたことを述べておく。そこで少々の意見の違いもあったが、その後調整が行われた。そのような記事になっていることを了解していただきたい。

 この出版社の編集部では、書籍編集者が年間で20冊前後を作ることが求められている。ただし、すべてがそのペースを守れるわけではない。例えば、30代半ばのある編集者は昨年13冊を作った。そのため、この数字は、上司によると「好ましくない」のだそうだ。

 このあたりは、管理職(副編集長、編集長、編集部長)の中で意見が一致していない。ある者は、「年間で求められるペースを維持することが大前提」という。その一方で、こう答える者もいる。「どれだけ売ったかの総数が、何よりも大切」。実は、ほかの出版社の管理職たちに尋ねても、ここは意見が分かれるところだ。

 そこで、私はこの会社の元役員(現在、中小出版社顧問)に連絡を入れた。その人はこう答える。

 「年間の総売上部数によって、上司は編集者を判断しない。少なくとも、3つの判断基準がある。1つは、1冊の刷り部数に対しての売り上げがどのくらいあるのか。そして増刷率(年間何冊作り、そのうちどれくらいが増刷になったのか)、コスト――これら3つが職務遂行能力の判断基準」だという。

 管理職の言い分か、それとも元役員の回答が実態に近いのかは読者の判断にまかせる。なお、元役員の回答に「コスト」とあるが、これは他の業界の人が考えるような厳密なものではない。コストについて書くことは、今回の取材先の出版社との間にコンセンサスが得られなかった。ここでは控えたいが、このあたりが闇にされているために、著者(表向きの『書き手』、実は話しているだけ)のあおり(経済的な損失)をゴーストライターが受けるのである。

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