ゲームプラットフォームの未来、「セルフィちゃんねる」の挑戦野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(2/2 ページ)

» 2010年06月11日 08時00分 公開
[野島美保,Business Media 誠]
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ドメインレス・プラットフォームの可能性

 筆者がこのアプリを一見して感じたことは、「ドメインレス・プラットフォーム」という未来の可能性である。

 1つのアプリの枠におさまらない、新しいソーシャルゲームの展開方法である。アプリ間での客の動線、あるいは、mixiと@gamesという2つのプラットフォームでの客の動線を考えるという切り口である。複数のアプリやWebサイトが仮想的に結びつくことで、あたかも1つのプラットフォームとして機能する、新しいプラットフォームの可能性である。

 プラットフォームの形態は、情報端末の規格というハードウエアから、特定のWebサイトとそこにコンテンツを載せるためのプログラム規格というソフトウエアに移った。後者に当たるのが、ソーシャルゲームのプラットフォームとなったSNSである。

 これがさらに無形化し、サービス要素をベースとしたプラットフォームに進化する可能性が考えられる。そこでは、いかにユーザーを満足させて有料課金を引き出すかという、サービス要素が中心的な役割を占める。

 これまでのコンテンツの評価指標を振り返ってみよう。プラットフォームの未来像は、収益モデル(マネタイズ)と評価指標に深く関係している。

 民放テレビ放送と同じく広告モデルをとるならば、画面を見る目の「数」が何より重要となる。そこで評価指標として、視聴率至上主義ならぬ、PV(ページビュー)至上主義が生まれた。特定のページに対するアクセス「数」が、そのまま広告収入につながるからである。

 時代は移り、動画サイトやユーザー投稿型のサイトが台頭し、1つのページを長く見るスタイルが増えてきた。そこで、コンテンツを見ている目の「数」だけではなく、見ている「時間」が重要と言われるようになった。実際に、動画サイトやSNSなどの近年の人気サイトは、「ユーザーの滞在時間が長い」と言われている。3年ほど前から、視聴率調査の大手ニールセンでは、ランキング算出の際に、サイト滞在時間を調査対象に組み込むようになった(参照リンク)

 そして、リーマンショック後の広告収入の落ち込みから、ユーザー課金によるマネタイズが注目されるようになる。収入の源泉は、「金を払ってでも使いたいと思うか」というユーザー心理に存在するようになる。すると、アクセス数の意味は、相対的に低くなる。もちろん、人通りの多さはビジネスチャンスになるが、あくまでユーザーに金を払ってもらわねば意味がない。どれだけの人が課金するか(PU)、客単価はいくらか(ARPU)という別の指標が、売り上げを構成する。

セルフィちゃんねる

 ユーザー心理を突き詰めていくと、「ユーザーが生活のなかで、どれだけ意識してくれているか」が大事なのだという考えが出てくる。

 携帯アプリが、この考えによくマッチしている。1日に使う時間はさほど多くなくても、心のどこかでいつも気になっていて、時間が空いたときについ見てしまう。人気の携帯アプリはそういう遊ばれ方をしている。

 実際に画面をみている回数や時間ではなく、どれだけ気になる存在になれるのか。目指すのは、画面を見ていない時にも、頭の片隅に残るサイトである。そんな「ユーザー意識」を作り出すことができた時、特定のサイトやプラットフォームに縛られないコンテンツが可能になる。

 サービス要素からなるプラットフォームでは、1つのサイトやアプリという固定の場にこだわる必要がない。ユーザーにどれだけ意識させ、どれだけ満足させるかが鍵である。そのノウハウが蓄積できれば、サイトやアプリの展開はもっと柔軟になり、固定の場にこだわらないドメインレス・プラットフォームの道も見えてくる。

 プラットフォームの未来がどんな風に描けるか、不確定なところは多いが、こんな可能性を1つ念頭におきながら、今後の趨勢を見ていきたい。

野島美保(のじま・みほ)

成蹊大学経済学部准教授。専門は経営情報論。1995年に東京大学経済学部卒業後、監査法人勤務を経て、東京大学大学院経済学研究科に進学。Webサービスの萌芽期にあたる院生時代、EC研究をするかたわら、夜間はオンラインゲーム世界に住みこみ、研究室の床で寝袋生活を送る。ゲーム廃人と言われたので、あくまで研究をしているフリをするため、ゲームビジネス研究を始めるも、今ではこちらが本業となり、オンラインゲームや仮想世界など、最先端のEビジネスを論じている。しかし、論文を書く前にいちいちゲームをするので、執筆が遅くなるのが難点。著書に『人はなぜ形のないものを買うのか 仮想世界のビジネスモデル』(NTT出版)。

公式Webサイト:Nojima's Web site


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