iPadブランドマガジンの驚き――“iPad後”の広告シーン郷好文の“うふふ”マーケティング(1/3 ページ)

» 2010年06月03日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の開発、海外駐在を経て、1999年〜2008年までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略など多数のプロジェクトに参画。2009年9月、株式会社ことばを設立。12月、異能のコンサルティング集団アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。コンサルタント・エッセイストの仕事に加えて、クリエイター支援・創作品販売の「utte(うって)」事業、ギャラリー&スペース「アートマルシェ神田」の運営に携わる。著書に『顧客視点の成長シナリオ』(ファーストプレス)など、印刷業界誌『プリバリ[印]』で「マーケティング価値校」を連載中。中小企業診断士。ブログ「cotoba」。Twitterアカウントは@Yoshifumi_Go


 ここ数日、私はiPadに揺らされた。

 iPad発売8日前の5月20日、1人の美人が資料を携えて、私の仕事場にやってきた。「今日はまだ本機でのデモをお見せできないのですが……」、そう言いながら広げた資料には『Wired Vision』や『Wall Street Journal』の記事がある。そこには、「『タイム』誌の創刊1号から8号の広告に1件20万ドル(1800万円)の値が付き、ユニリーバやトヨタ自動車などそうそうたる企業ですでに完売」と書いてある。

 「なんですって!」、美人の顔を(これ幸いと)まじまじと見つめて叫んだ。『タイム』誌とは印刷版ではなく“iPad”版だ。広告やマーケティングがどう変わるのか、彼女は静かに説明した。衝撃を受けた私は「これはお告げだ」と直感した。買わないとダメだ。

 衝動のままに、予約なしで発売当日にiPadを購入。さっそくその資料にあったキーワード「smile」をApp Storeで入力。サッカー日本代表の中村憲剛選手の笑顔が表紙のiPadアプリ、プレステージ化粧品CLINIQUEの電子雑誌『Smile』をダウンロードした。5月28日に公開開始された”iPadブランドマガジン”である。

プレステージ化粧品CLINIQUEの電子雑誌『Smile』

iPadブランドマガジン

 右へスライドするとマガジンスタイル。下にスライドするともっと深いコンテンツが展開される。遠山正道さん(スマイルズ代表)、藤代冥砂さん(写真家・小説家)ら笑顔が似合う著名人インタビューが“縦横無尽”に広がる。タテにヨコに揺らせばコンテンツデザインが変わり、動画へもシームレス。タップすると「目次ナビ」の帯が下部に出現。「肌シミュレーター(お肌診断)」や外部ECサイトへ直結する。

『Smile』での中村憲剛選手インタビュー

 「今までの雑誌をiPad用に移し変えるなんてナンセンスです」

 『Smile』をプロデュースした、PR会社ビルコムの太田滋代表取締役兼CEOは言う。「企業戦略上でiPadを位置付けると3つの変化があります。『クリエイティブの変化』『企業メディアの変化』『カスタマイズの変化』です」

iPadマガジン 『Smile』 by CLINIQUE for MEN #01

 クリエイティブの変化、それはiPadのコンテンツ表現の衝撃だ。ブランドイメージを優先する化粧品業界では、これまで画像サイズや表現力の点で劣るWeb媒体への広告出稿が少なかった。そのためか、Yahoo! BEAUTYが展開するWebマガジン『LuAu(ルアウ)』は、化粧品企業向けの広告営業という狙いも見える。だが、このiPadでのプロモーションでは、『CLINIQUE』側が積極的に「やりたい」と発案してきた。大企業も変化をつかんでいる。

 「そこで、私たちは藤本やすし氏に『雑誌のクリエイティブやアートディレクションをもう一度創り直しませんか?』と提案したのです」と太田社長。藤本やすし氏はこれまで、『GQ』『VOGUE』『BRUTUS』『流行通信』など、日本を代表するファッション雑誌やルイ・ヴィトンなど著名企業広告を手がけてきた。必ずしもWeb派ではないと言われる藤本氏を口説けた背景には、太田さんの熱意だけではなくiPadの表現力があった。

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