コラム
» 2010年06月02日 08時00分 UPDATE

“買う”を超えて考えない企業は行き詰まる (1/2)

外食企業の農業参入への動きが進んでいます。この背景には、食の安心・安全意識の高まりや農業をめぐる規制緩和のほかに、経営の前提が変わっていることにもあります。原料・素材の確保について考えなければいけないのは、他産業にも当てはまること。経営の前提の何が変わり、それにどう対応すべきかを考えます。

[中ノ森清訓,INSIGHT NOW!]
INSIGHT NOW!

著者プロフィール:中ノ森清訓(なかのもり・きよのり)

株式会社戦略調達社長。コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供している。


 日本経済新聞社の2009年度飲食業調査によると、外食企業のうち、有効回答企業の約2割にあたる45社が農業に参入済み、または参入の意向とのことです(出所:2010年5月17日、日本経済新聞1面)。

 記事によると、「その背景には食の安心・安全意識の高まりや農業を巡る規制緩和がある」とのことですが、それだけではないと思います。もう1つの背景として、企画から顧客への商品やサービスの提供までの価値が相対的に薄れ、素材の希少性や価値が高まっていることがあります。

 外食の本来の価値は、業態やメニュー開発、出店戦略、調理や接客などの店舗運営などにありますが、業態やメニュー開発、店舗運営はどんなに優れたアイデアを出しても、特に外食のような消費者向けビジネスでは情報やノウハウが丸裸になってしまうので、すぐに真似されてしまいます。

 従業員教育では会社の価値観や文化、実力などによりバラつきが出ますが、優れた会社も少なくないので、各社が努力を重ねることでやがては平準化してしまいます。

 結局、価値は「希少性」のあるところに移るわけですが、そうした中、外食産業でも、より川上の素材に目を付けて、自社農園での栽培という流れが生まれていることも、今回の調査結果を後押ししていると考えられます。

 こうした川上への希少性のシフトは、外食産業に限ったことではありません。ビジネスパーソンの方々なら、鉄鉱石を始めとする鉱石類、レアメタル、レアアースなどの価格交渉で、資源メジャーや素材メーカーの立場が強くなっているというのを肌身で感じたり、ニュースで見聞きしていないでしょうか。

 資源メジャーや素材メーカーが、強気の値上げを迫ったり、価格交渉方式の市場連動型への切り替えや価格見直し期間の短縮化などを求めているのは、いずれも資源や素材の高騰に合わせて、それをスムーズに価格転嫁するための動きです。市場連動型の価格決定や、価格見直し期間の短縮は、相場のトレンドによっては買い手にとってもメリットがあることも多いのですが、需要回復の兆しが見えない現在、これらの見直しが資源メジャーから鉄鋼などの素材メーカーへ、素材メーカーから自動車や電機などの部品・製品メーカーへなど、川上から少しずつ川中、川下に向かって進んでいるというのが特徴的です。

 もう1つの懸念は、市場が機能しなくなっていることです。これまでの商品市場は、需給の調整や先物による価格安定機能を果たしてきました。しかし、近年のマネーの過剰流動性により、投機マネーが大量にさまざまな商品市場に入り込むことにより、短期的な価格の上下のブレが激しすぎて、商品市場が需給や価格の調整機能を果たせなくなっています。

 先の値決め方式の市場連動型への移行、価格見直し期間の短縮と相まって、買い手企業では今後、資源や素材の価格がますます安定しなくなることが懸念されています。買い手企業にとっては、中長期的な価格上昇だけでなく、この価格の不安定さが個々の意思決定を難しくし、その巧拙によって業績を大きく左右されることになるので、非常に頭の痛いところです。

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