戻ってきた、二番底の恐怖藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2010年05月31日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 英エコノミスト誌最新号のカバーワードはちょっとドッキリである。“Fear Returns” 戻ってきた恐怖、というところだろうか。サブタイトルに「二番底をいかに回避するか」とある。順調に回復しているかに見えた世界経済。ギリシャの債務危機に端を発して、2008年9月のリーマンショックほどではないとはいえ、世界的に株価が急落している。

 不安要素はいくつかある。ギリシャを始めとするいわゆる「ソブリンリスク(国にお金を貸しても、返済されないのではないかというリスク)」。金融危機の中で景気刺激のために各国は財政資金を投入してきた。その「ツケ」をどうやって払うのかということに投資家が神経質になって、財政状況の悪い国に対する不安感が高まっている。具体的にいえば、ギリシャ以外にポルトガル、スペイン、イタリア、アイルランドなどである(こういった国以上に財政状況が悪いのが日本だが、日本の国債は90%以上が日本人によって保有されているため、差し迫った危機ではないとされる)。

 もう1つの不安要素は中国の住宅バブルである。政府はこのバブルを何とか冷やそうと、頭金の金額を上げたり、住宅ローンの金利を上げたりしているものの、北京などでは相変わらず大きく上昇しているという。公式統計では、この4月までの1年間で中国の70都市における住宅価格は12.8%上昇したとされるが、この数字はあまりに控えめだというのが一般的な見方だそうだ。

 北京で100平方メートルの家を買おうとすると平均的な年収で17年分というから、かつての日本のバブルとほぼ同じと言っていいかもしれない。中国の住宅バブルは、「実需」というより投資物件として買う人が増えていることも1つの要因だが、中国政府は2軒目の家を買う場合は頭金を半分以上支払うことを義務付けるなどの政策を取った。

 もっとも中国で住宅バブルがはじけたとしても、日本の1990年以降のようなことにはならない。何と言っても、中国の内需には成長余力があるからである。1人当たりのGDPで見れば、日本の10分の1にしかすぎないということは、住宅はもとより家電製品、自動車などの耐久消費財の需要はまだまだ旺盛ということだからである(今の日本では、自動車などはピーク時の40%減の水準でしかない)。

朝鮮半島の緊張

 そうした状況の中で、アジアの株価を揺るがしたのは、朝鮮半島の緊張だ。この3月に韓国の哨戒艦が沈没したのは、北朝鮮の潜水艦の魚雷攻撃によるものだという調査団の発表があったからである。例によって北朝鮮は、激しく反発し、全面戦争も辞さないと公言している。

 しかし「全面戦争」などという可能性はほとんどない。北朝鮮にそんな余力はないだろうし、もし全面戦争を覚悟したとしても、中国の了解なしに開戦することは不可能だ。そして韓国はもちろん、米国にとっても中国にとってもロシアにとっても、朝鮮半島での「有事」は最悪のシナリオである。もちろん日本にとっても同様だ。北朝鮮から、大量の難民が流れ出すことになって、それへの対応に追われることになるだろうし、その負担は決して小さくはない(だから鳩山首相が「日本が先頭を走って」北朝鮮に対応するなどと力んだ真意が分からない。韓国への支持は惜しまないとしても「先頭を走る」必要はないからである)。

 ただ問題は、北朝鮮がテロや特殊部隊による攻撃を仕掛けてくる可能性があることだ。そういった事態になれば、成長軌道に乗っている韓国経済は大打撃を受けることになるだろうし、その影響は日本にとっても小さくはない。

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