うつ病からの復職を考える(1/2 ページ)

» 2010年05月28日 08時00分 公開
[荒川大,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:荒川大(あらかわ・ひろし)

株式会社ENNA代表取締役。「人的リスクマネジメント」をキーワードとして、内部統制対応の人事コンサルティング、IT統制対応の人材派遣、メンタルヘルスのカウンセリングを提供している。


 厚生労働省の発表では、2008年度の「うつ病」の罹患者は100万人を超えています。加えて、「働き盛りの男性会社員で、うつ状態で病院を受診するのが10%未満」というアンケート結果も出ていました。潜在的には、100万人よりもっと多くの日本の労働者がうつ状態にあるのでしょう。

労働とは何か?

 筆者が実際に、メンタルヘルスのカウンセリングを提供して、うつ状態のままでも働き続けるためのサポートや、うつ病で退職した後に復職できるような職業訓練的取り組みを行っていると、「うつ病であれば働けない」ということをそのままステレオタイプでとらえることにとても違和感を覚えます。

 確かに「うつ病」からの復職に限定して考えれば、正規雇用社員として勤務する日数(就業規則で定められた時間数)をまっとうできない可能性は高いのですが、正しいジョブ管理とタスク管理、そして労働時間管理さえできていれば、労役の提供が不可能ということはないと思うわけです。

 そもそも、今の日本の労働のあり方が労働基準法に従い、「労働時間管理」に傾倒しているため、雇用する側も雇用される側も「成果」や「付加価値」、そして「存在意義」について考えることが少なく、「どれだけ労働(厳密には労働環境への滞留)を我慢していられるか」が重視されることによる企業運営上の不利益が目立っています。

 もちろんコンプライアンス経営を行うためには、労働基準法に従うことは大前提ですが、うつ状態のいかんにかかわらず、日本人の労働意識という点で、「成果主義」に労使双方の意識がシフトせず、この言葉や制度が単にサービス残業を作り出すためだけに普及している状況では、「過重労働を助長しているだけではないか」と思うのです。

再就職支援は再就職活動の支援であって、再就職は支援できない

 最近、リストラと称した人員削減が進行していますが、正直なところ、労働に対して「労働時間=賃金」的な働き方をされてきた方にとっては、仕事がない状態は非常にストレスフルな状態と言わざるをえません。

 6月から厚生労働省の緊急人材育成助成金事業として、筆者は「就職塾」の講師を務めることになりましたが、月10万円をもらう労働者を生み出すための研修ではなく、価値を生み出せる人材になっていただくものにしなければならないのだと思います。

 加えて、自分自身の価値について深く考えることなく、会社や学歴、会社員として築いてきた名刺に連なる人脈で自分自身を形成されてきた方にとっても、退職するとやはり厳しい状況になると言わざるをえないのです。

 仮に自分の名刺から「社名」が削除された場合、どこまで信用してもらえるのかどうかを考えてみたら分かるかもしれません。または、社名の入っていない名刺を受け取って、その名刺の方に仕事を依頼したいと考えられるかもポイントになります。

 ちなみに「再就職支援」というと、人員削減をしたい会社が再就職支援会社に依頼するサービスととらえられているのですが、人材紹介会社に在籍した人間としては、再就職支援サービスは「無駄な期待感の飼い殺し」であり、「実際は自助努力でしか改善できない現実」を気付かせるのに時間がかかるサービスであり、全業界において労働者の過剰感がある中で、どれだけ有名な再就職支援会社にいたところで、あまり得るものはないと考えています。……極端な言い方かもしれませんが(個人的な感想で偏りもあります)。

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