この国の問題は「誰がおカネを使うのか」ということ藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2010年05月24日 07時49分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 「最低でも県外」と言っていた鳩山首相。その思いとは裏腹に、結局は現行案に近い形で決着をつけざるをえなくなった。沖縄に具体的な案をもって説明に行っても、もちろん色よい返事はもらえるはずもない。あれだけ沖縄の期待感をあおったのは首相自身であるから、その結果も首相自身に受け止めてもらわなければならない。それが最高責任者というものである。

日本という市場には成長力がない

 もっとも鳩山首相は辞任する気はさらさらないようだ。民主党内でも引責辞任すべきだという声は大きくない。この参院選は何が何でも鳩山・小沢体制で乗り切ろうということなのだろう。もちろん参院選前に内閣支持率が10%台とかひとケタに落ちれば、当然、党内から反乱が起きる可能性もある。

 世間も必ずしも辞任論に傾いているわけではないように思える。何と言っても、民主党は昨年夏にようやく政権の座についたばかり。未経験でもある上に、官僚依存からの脱却を掲げているのだから、政治が素人っぽくなったとしてもやむを得ない。とにかく日本の政治を変えようとしているのだから、もう少し時間を与えるべきだという声である。

 問題は、与えるべき時間が、われわれに残されているかどうか、ということである。現在の日本にはさまざまな問題があるが、一番大きいのは経済だ。先日もある一部上場会社のトップは「日本に本社を置いていてもいいことは何もない。雇用を守るという意味では必要でも、会社を生き残らせることのほうが重要だ」と語っていた。

 要するに、日本という市場には成長力がないということである。だからこそバブルがはじけて以来、何百兆円もの財政資金を投じて景気浮揚を図ったのに、「失われた20年」になってしまった。いくらカネを注ぎ込んでも、まるで砂漠に水をまいているように消えていってしまう。以前なら、土木業者にカネが落ちれば、それが消費を刺激し、そしてメーカーが増産投資を行い、景気が回復していった。しかしいまは、輸出以外の最終需要が盛り上がらないから設備投資も回復のしようがない。

 困ったことに国内の消費は大きく伸びる要素がない。人口の多い団塊世代は引退の時期に入っている。これからは貯蓄の取り崩しで生活する世代である。それだけに消費には慎重だ(この団塊世代が老後に費やす資金を当てにする議論があったが、現実にはなかなか財布のひもが固いようだ)。また生まれてくる子どもの数が減っていることも響く。子どもが生まれれば、親はかなりの金額を子育てのために使う。紙オムツや衣料品はもちろん、バギーやらベッド、チャイルドシートまで買う。「義務的消費」と言ってもいいぐらいだ。

民主党は成長戦略を打ち出せるのか

 そういった構造的問題を抱えている以上、成長戦略を描くといってもそう簡単ではない。問題は「誰がおカネを使ってくれるのか」ということに尽きるからである。例えば民主党が昨年末に発表した成長戦略の素案では、介護や医療といった福祉分野も「成長市場」として挙げられていた。

 これからは老人世代が増えるのだから、そういった分野が「成長市場」であることは間違いない。ただ問題は、誰がそのカネを払うのか、ということである。分かりやすく言えば、約34兆円の国民医療費は、先進各国に比べて決して高い水準ではない。だから医療費はもっと増えるべきであって、そのおカネは医師や看護師などの人件費、さらには薬や医療機器などに回る。「医療という産業」を伸ばせば、それが国を潤すことになるというのである。

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