マイケル・J・フォックスから知った米国社会の現実――翻訳家 入江真佐子さんあなたの隣のプロフェッショナル(3/4 ページ)

» 2010年05月22日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]
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翻訳家としての醍醐味とは?――トリイ・ヘイデンとの出会い

『ダイアナ妃の真実』。非常にタイトなスケジュールで翻訳を求められたという

 さてここで、入江さんのプロフィールについて伺ってみたい。

 「1953年生まれ。語学が好きだったので、国際基督教大学(教養学部・社会科学科、人類学専攻)に進学しました。卒業後は、翻訳権のエージェントをやっている会社に就職しました。仕事柄、日本の出版各社とのつながりもありましたし、職場には、実際に翻訳をやっている上司もいて、翻訳家という職業が身近に感じられましたね。この会社は3年ほどで退職し、1年ほど海外生活を経験して、帰国後、結婚しました。翻訳を始めたのは、そのあとです」

 最初の仕事は、ハーレクインシリーズ(参照リンク)。1982年ごろから数年間で10冊以上を翻訳したという。

 「これは、私にとっては修行の期間でした。ハーレクインロマンスの日本語版というのは、すべて、ページ数が最初から決まっているんです。原文をそのまま翻訳していたのではページ数がオーバーしてしまいます。それで、ストーリー展開を不自然にしないよう配慮しつつ、あちらこちらをカットして翻訳し、最終的にぴたりとページ数を合わせるのにずいぶん苦労しました」。

 ここでの仕事ぶりが評価されて、早川書房を紹介されたという。青春小説を担当した後に入江さんを待っていたのが、アンドリュー・モートンの『ダイアナ妃の真実』。たいへん話題になった本なので、ご存知の方も多いことと思う。


トリイ・ヘイデン『シーラという子』。虐待を受けたシーラと、そのシーラを支え、愛した教師・トリイのノンフィクションだ

 翻訳家としての評価を確立した入江さんは、やがて、翻訳家人生の代表作となる作品と出会う。

 トリイ・ヘイデンの作品群だ。彼女は、1951年、米国モンタナ州生まれの教育心理学者で、情緒障害や行動障害をもつ子供たちを現場で指導しつつ、その経験をノンフィクション作品として発表し続けている。『シーラという子―虐待されたある少女の物語』、続編である『タイガーという子―愛に飢えたある少女の物語』をはじめ、その作品群は、世界各国で広く読まれている。

 「おかげさまで、『シーラという子』は日本でも大きな反響をいただきまして、それ以降、トリイ・ヘイデンの作品を翻訳する機会に恵まれたんです。結局、全部で11冊になりました。それだけではありません。日本語版の発売にあわせて、彼女自身も来日し、お会いする機会を持てたんです。以後、何度か来日し、一緒に旅行もしました。私と誕生日も一緒で(笑)、以来、お友達というか、ずっと親しくさせていただいています。まさに翻訳家冥利に尽きる出来事ですね!」(入江さん)

トリイ・ヘイデンと入江真佐子さん

 翻訳家としてのキャリアは、早25年以上。そうした入江さんの円熟味を堪能できる最新作が、『いつも上を向いて 超楽観主義者の冒険』である。

翻訳家として求められる資質とは?;

 最後に、翻訳家として必要な資質についてお聞きしてみた。

 「外国語の能力は、もちろん必要です。しかし、それ以上に大切なのは日本語力だと私は思います。なぜなら、元は外国語であったとしても、それを日本語で出版するのですから、肝心の日本語が、正しくそして分かりやすくないと話になりません」

 では、日本語力を高めるためには、どうしたら良いのだろうか?

 「日本語の能力は、若いころからの読書量に比例すると思います。それも、幅広くいろんな分野の本を読んでいる方が良いですね。広く浅くでも良いので、広範囲にわたって知っていれば、それに越したことはないと思います。

 というのも、入ってくる仕事はさまざまです。いろいろな分野の用語や事柄に遭遇します。それを翻訳してゆくに際して、調べるとすれば、どこでどうやって調べたらよいか、ということが、そのたびごとに分からないと、翻訳家としてやってゆけないからです」

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