説得できない鳩山総理は、“残念”である藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2010年05月17日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 政治とは説得であると語ったのは、米国の政治学者、ジェラルド・カーチス教授だったと記憶する。国家としては必要だが、自分の地域にそれが来ると困る。そういった例はたくさんある。軍事基地や原子力発電所あたりがすぐ思いつくものだろう。これを建設する必要があっても、もちろん強行することは生産的ではない。強行した例としてあげられるのは、成田国際空港だ。土地買収が遅れに遅れ、結果的にとんでもなく中途半端な国際空港になり、日本の空港がハブ空港になる機会を逸してしまった。

 原発も「嫌われ者」である。立地計画には反対がつきものであるが、資源エネルギー省や電力会社は地元との地道な交渉を行い、かつ協力金という名の巨額の「迷惑料」を支払う。もちろんその他の地方税も支払うから、地元はそれで潤うことになる。だからといって、札束で顔を張るような姿勢で事がうまく進むはずはない。それこそ膝をつきあわせての地道な話し合いを辛抱強く続けるしかないのだと思う。

地元を説得することはできない

 さて、沖縄の普天間基地移設問題。平野官房長官が徳之島の「基地誘致派」の町議たちと会談した。報道によると「悪いようにはしない」と言ったのだそうだが、何だか時代劇の悪代官みたいな口ぶりで印象が悪い(最も本当にそう言ったのかどうか、どのようなコンテキストで言ったのかは判然としないのでこれ以上嫌みを言うのは止めておく)。それはともかく、誘致派の人たちと会うこと自体は当然だと思うが、すでに徳之島の3人の町長が強い反対の意思表示をしてしまっている。つまり地道な交渉もできないままに、政治的には極めて困難な状況になっているのである。

 この期に及んで(まさにこの表現がピッタリだと思う)、誘致派の人々と鹿児島のホテルで会談すれば、住民の印象はますます悪くなるばかりだ。これでは誘致派の人々は地元にとっては「裏切り者」になってしまう。まして3人の町長にしてみれば、職を辞さなければ誘致することはできない(もっとも首相も確か「職を賭して」と言っていたが、それは言葉のアヤだったのだろうか)。

 どうもボタンを掛け違っているというか、物事の進め方の段取りが悪いというか。地元への根回しというものは、地元住民が意思表示をする前に行うものであって、反対大集会をやってしまった後に根回しされても「一昨日おいで」と言われてしまうだけだと思う。」

 これでは到底、地元を説得することはできまい。こうして見ても、政治とはもちろん説得なのだと思うが、それと同時に「見え方」も重要だと思う。そしてその「見え方」を大きく左右するのはメディアである。民主党が野党の時代にはメディアがなかなか注目してくれないとぼやいていた。今は、メディアの報道が「偏っている」と文句を言う。

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