ハリウッド・スターの光と影――マイケル・J・フォックスあなたの隣のプロフェッショナル(2/6 ページ)

» 2010年05月16日 20時52分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]
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ハリウッドの日々は「バブル」だった

1988年、女優のトレイシー・ポランと結婚。写真は1988年8月、第40回エミー賞授賞式にて撮影したもの。Creative commons. Some rights reserved. Photo by Alan Light

 ハリウッドでの日々を、マイケルは、「バブル(泡)だった」と回想する。

 ハリウッドのセレブリティといっても、たまたま幸運に恵まれて映画がヒットしただけのこと! 続く作品がコケれば、たちどころに失業者同然になってしまう。作品の封切のたびに、そのことで神経を磨耗し続け、絶えず、言いようのない不安感を抱いている。なるほど、作品がヒットしている間は、世界中どこに行っても分不相応なまでの特別扱いを受ける。しかし内心「自分には、そこまでされる価値などないのに……」という思いがあり「いつかそのことがバレるんじゃないか?」という強い恐怖にさいなまれ続ける。

 スクリーン上ではスターとしてのオーラを放てば放つほど、内面の葛藤は日に日に深刻の度を増してゆくばかり。こうした不安や焦燥ゆえであろうか、自らを駆り立てるようにスケジュールを次々に入れてゆき、そのため、家族はいつも離れ離れで、そのきずなもいつしか途切れがちとなる。

 人気俳優は、本人の人格が作品の役柄と一体化しているかのように世間からは見なされがちだ。誰かを演じ、役になりきっていくほどに、どこまでが役柄でどこからが本当の自分なのかも、よく分からなくなる。芸能マスコミが私生活の細部にまで干渉し、スキャンダルを暴いて金にしようと、日々躍起になる中で、いよいよ自分が自分でいることは難しくなってゆく。

 マイケルが感じるハリウッドの「バブル」は、スケールの差はあっても日本の芸能界の姿そのものであろう。アルコールにおぼれたり、違法ドラッグに手を出したり、果ては自殺してしまう人が跡を絶たないのは、こうした余りに特殊な環境ゆえであろうか? マイケルもやはり、アルコール依存症への道をひた走った1人であったことを『ラッキーマン』で告白している。

 しかし、彼には、この生活が「バブル」に過ぎないというはっきりとした自覚があり、家族を中核とした、そして自分が自分自身でいられる、地に足のついた生活を実現したいという強い意志があった。1988年、人気絶頂時に女優のトレイシー・ポランと結婚した際も、あらゆる反対、圧力、策謀、妨害を跳ね返して、家族だけの内輪の結婚式を強行したことはその典型だが、この想いこそが、その後の彼の「自己再生」への原動力になってゆく。

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