コラム
» 2010年05月11日 08時00分 UPDATE

新卒の就職が難しい本当の理由

「新卒学生に就職するための教育訓練を施す」という試みを行政が行っている。しかし、教育訓練を行っても本質的には、新卒学生の就職難は改善されないと筆者は説く。

[川口雅裕,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール

川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

イニシアチブ・パートナーズ代表。京都大学教育学部卒業後、1988年にリクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報(メディア対応・IR)および経営企画を担当。2003年より株式会社マングローブ取締役・関西支社長。2010年1月にイニシアチブ・パートナーズを設立。ブログ「関西の人事コンサルタントのブログ


 大学生の就職の支援を行うのは、このようなご時勢で意義があるとは思うのですが、そのような支援の多くは「大学生に就職する力がなくなっている」「大学生のレベルが低い」ことだけの改善を目的にしています。しかし、就職が厳しくなっている原因は、本質的にはそれではありません。

 就職が厳しくなったのは、企業が新卒を雇う余力を失っていることが原因です。それも、リーマンショック以降の不況のせいなどではなく、振り返ると企業が新卒を採用する力を失うようになった理由がいくつか考えられます。

給与カーブが立ってきた

 最も大きな原因は、給与カーブが立ってきたことです。年齢や階層を横軸に、給与額を縦軸にとった場合の給与カーブは、例えば20年ほど前から比べると、右上がりの角度が大きくなっています。「社長の給与は、新入社員の給与の何倍か?」という見方がありますが、その昔、日本はせいぜい10倍やそこらであり、数百倍という例もある欧米に比べて安すぎると言われていました。

 ちょうどそのころから、企業のガバナンスに対する経営責任がクローズアップされるようになって、「責任の重さからすると、日本の社長の給料は安すぎる」という雰囲気が支配的になった結果、トップの給与が上がっていきました。トップだけ上がるはずはなくて、それに引っ張られるようにしてほかの取締役が上がり、部長が上がり、課長が上がり……としてカーブが立ってきたわけです。

 その流れを論理的に補完したのが成果主義とも言えるでしょう。つまり、高い業績や高い能力に対してもっと支払うと、従業員のモチベーションがもっと上がっていくという理屈で、給与カーブを立てたということです。利益も拡大しているのであればそれでも問題はありませんが、そうではなかったので、これにより若者の取り分、若者に対する支払い余力が減少したというわけです。

 給与カーブを立てるような変更はしていないという会社も、昇格や定期昇給などによって在籍者の分布が徐々に右上の方に移ってきているので、若者に対する支払い余力が落ちているという点では同じです。また、給与カーブが寝てきたという統計もありますが、それは賞与などの利益配分要素を加えた支払い結果を、それもバブル期と比較しての結果であって、制度設計上の問題とは異なる話です。

雇用拡大策だけを企業が受け入れてきた

 ほかには、雇用を拡大する政策が継続的に行われていたことも大きいでしょう。例えば、60歳定年が禁止され、高齢者の雇用延長が義務付けられました。高齢者や障がい者の雇用状況はその報告が義務付けられ、罰則の設定など指導も厳しくなって、大きく改善されましたし、女性の働く場も働きやすさもなお課題があるとはいえ、昔とは大違いです。

 これらは必要なことであり、かつとてもすばらしいことですが、経済成長がずっとないのに、これらの雇用拡大策だけを企業が受け入れてきたのですから、もう新卒を受け入れる余裕など残っていないのも当然と言えます。

 就職難の本質は、これらのしわ寄せがきているという問題であり、その解決策は「成長」が第一ではありますが、給与カーブを寝かせる(超難題です)か、例えば学卒3年以内の新卒者の雇用義務(2%くらい)を課すかくらいしかないのではないかと思うわけです。(川口雅裕)

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