ネットワーク化で社会を変革せよ―― 社会学者、鈴木謙介氏インタビュー(後編)2030 この国のカタチ(3/3 ページ)

» 2010年05月07日 08時00分 公開
[乾宏輝,GLOBIS.JP]
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ネットワークを広げないと、社会は変わらない

 今日は長時間ありがとうございました。最後に読者にひと言お願いします。GLOBIS.JPに集まってくるオーディエンスは、割と本気で社会を変えたいと思っている人たちが多いんです。その人たちに向けて鈴木さんからメッセージをお願いします。「こういうところにもっと目を向けてほしい」とか、逆に「こういう時代だけど頑張ってほしい」とかですね。(年代は)20代後半から30代が中心です。

鈴木 うーん、そうですね、何があるかな。まあ、まずその社会変革っていうこと自体は、もうずっと言われているんですよ。もう構造改革だとか政治改革だとかは、数十年ずっと言われている。だから、「何か変えなきゃ」、そして「変わったら何か良くなるんじゃないか」みたいな発想でものを考えるのは、もうやめたほうがいいということですね。

 実際、民主党政権も支持率はダダ下がりです。「何か新しいものに変えれば、それで何とかなる」という風に過剰な期待を寄せるのは、裏切られたときの失望感が大きくなるばかり。だからむしろ、「どう変えるのか」っていうことについてビジョンを持っていること。それがやっぱり重要だと思うんですね。

 「どう変えたらいいのか」というビジョンを持って、その次には、それを誰か偉い人が上から制度設計すれば変わるっていう考え方からも、脱却しないとダメだろうなと思いますね。

 例えば我々社会科学者っていうのは、「政策提言をするのが仕事の一部だ」と言われているんですけれども、例えば僕が何らかの政策提言をするために、何かの委員会に出ていって、ある提案をするとします。でもそれが実現されるためには、まず委員会の報告書をまとめる段階で、1つの「落としどころ」に丸められ、その委員会報告が官僚に読まれ、大臣のところに上がるまでにさまざまな伝言ゲームがあり、最終的に法案になって出てきた時は全然違うものになっている、みたいな(笑)。そういう現実がありますよね。

 だからこそ、政策提言と称して言いっ放しの案を書き散らすことに対しては、毒にも薬にもならない話をしている研究者より、はるかに厳しい目で見ていく必要がありますし、それは僕も例外じゃない。ともあれ、そうそう簡単には提案通りの制度なんて実現しない。

 じゃあ国会議員、あるいは内閣の一員になって、最も上流のところで制度設計に参加できるようになればいいかというと、上がってくる情報がとにかく膨大で、「どこまでを勘案すればいいのか」という問題に直面する。しかも、国会議員になれる人はそんなにいない。

 一番上流を握るとか、政策の実現にかかわりそうなところに参加していくだけが、社会を変える手段ではありません。その手前のところで、例えばその委員会に出るのもそうだし、「委員会に出るよ」って言っている人にTwitterで話し掛けて、「こんなことを言ってくれよ」と投げかけてみたり。あるいは自分の持っているビジョンを実現するために、自分の仕事をやってみるだとか。

 そういうことを通じて、「社会を変えたい」と思っている偉い人を1人作るんじゃなくて、社会を変えたいと思っている人を、10人とか100人とか1000人とか集めて増やしていかないことには、世の中は変わらない。

 誰か偉い人が、「AかBかCか、どれにする?」というふうに選択肢を示してくれる時代ではないし、そのA、B、Cすらも、いろんな人がいろんな形で丸めたものが出てきている。だったら、それを作っていくプロセスの一部になれるよう、仕事をしたり日々のコミュニケーションを活発にしたり、そういうことをやっていくべきだと思うんです。一番偉い奴になるんじゃなくて、みんなで変えていく作業の、その「みんな」の1人になることを目指す方が、おそらく実現性も、そしてそこに参加していることの充実度も高いんじゃないかなって気がするんです。

 もちろん今、30代市長なんかが生まれて、新しい世代への期待は高まっています。でもそれは限られたリソースですから。「普通の人が、普通の生活を維持しつつ、彼ら以外のところで何ができるだろうか」とか、あるいは「自分の力でできることって何だろう」ということを、見失わないでほしい。

 そのためにはビジョンを持って、それを実現するために、自分の歩ける範囲内、自分の動ける範囲内で動くこと。「対案を出さなきゃ意味がない」とか、あるいはブログで単に「誰それの言っていることはだめだ」とか書き込んですっきりして終わるだけじゃ、実りがない。「オレは頭がいい、オレは最初から分かっていた、世の中がみんなバカだったんだ」って言っているうちに、そんなことを言っていられる環境すらも失われるかもしれない。だから少しずつ、自分の範囲内でいいから、変えていく仲間を作って、広げてネットワークにしていくことが大事なんではないでしょうか。

 本当に長時間有難うございました。

鈴木謙介(すずき・けんすけ)

関西学院大学准教授。国際大学GLOCOM研究員1976年福岡県生まれ。専攻は理論社会学。インターネット、ケータイなど、情報化社会の最新の事例研究と、政治哲学を中心とした理論的研究を架橋させながら、独自の社会理論を展開している。2005年の『カーニヴァル化する社会』(講談社)以降は、若者たちの実存や感覚をベースにした議論を提起しており、若年層の圧倒的な支持を集めている。

2006年より、TBSラジオで「文化系トークラジオ Life 」のメインパーソナリティをつとめており、同番組は2008年、第45回ギャラクシー賞ラジオ部門において大賞を受賞。2009年からは、NHK教育テレビにて放送の「青春リアル」において、若者たちが語り合う「リアル・タウン」の「町長」として番組に参加している。著書は『サブカル・ニッポンの新自由主義』(筑摩書房)ほか多数。


乾宏輝(いぬい・ひろてる)

GLOBIS.JP副編集長。1979年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、読売新聞東京本社入社。記者として、神戸、川崎、横浜支局で、警察、行政、司法などを担当。阪神大震災遺族取材、JR福知山線脱線事故、新潟県中越沖地震といった災害取材にも携わる。2008年より現職。関心のあるテーマは、ビジネス、社会、メディア、思想、アニメ、ゲーム、浜崎あゆみ、B級グルメ。


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