もちろん、筆者もこの大手書店のオンラインサービスの存在、そして出版界でどのような使われ方をしているのかを知っている。
作家デビュー間もないころは、小遣いをやりくりしてこの大手書店で自らの作品を買った経験を持つ。また、出版社から提供される著者用献本のストックが切れた際は、自らの財布から金を出し、お世話になった方々に読んでもらうために自作を買った。これも手買いに他ならない。ただ、件の作品のように毎日数十冊ずつ身銭を切っていたのでは、いただいた印税はすぐになくなってしまう。筆者のような零細作家には真似をしたくてもできない離れ業なのだ。
ここからは筆者や出版関係者の想像であり、必ずしも事実ではないことをあらかじめお断りしておく。
件の作品は、著名作者の作品ということで確かに売れている。だが出版不況の最中、かつてのような実売部数は望めない。「最近は出版社が重版に慎重なため、確実に売り上げが立っている証として、手買いを繰り返しているのではないか」(某週刊誌副編集長)という観測がまことしやかに流れているわけだ。
オンラインサービスを運営する書店、そして件の作品を発売した版元にとっても着実に売り上げが立つ。作品の関係者が実際に手買いを繰り返し、売り上げ実績を作り上げているとしたら、出版不況の最中で懸命にもがいている証だ。
ただ同作の各種広告には、「重版!!」の文字がそこかしこに載っている。作品自体優れた内容だけに、こうした観測に接してしまうと筆者はげんなりとしてしまう。まして、出版界の内情を知らない一般の読者はなおさらだろう。同作は、各種の売り上げランキングでは現在も上位につけている。
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