若者はなぜ生きづらいのか?――社会学者、鈴木謙介氏インタビュー(前編)2030 この国のカタチ(1/5 ページ)

» 2010年04月27日 12時56分 公開
[乾宏輝,GLOBIS.JP]

2030 この国のカタチ

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2010年4月21日に掲載されたものです。


 3月初旬。学生の姿もまばらな関西学院大学のキャンパスに、鈴木謙介さん(33)を訪ねた。メッシュの入った茶髪にあごヒゲという出で立ち。重厚な研究室がまったく似合わない。

 それもそのはず。気鋭の社会学者は、TBSラジオ「文化系トークラジオ Life」、 NHK「青春リアル」でメイン・パーソナリティーを務め、若者の間では「チャーリー」の愛称で親しまれている。難解な社会学用語を駆使する一方で、誰にでも分かる言葉でも語りかけてくれる、頼れるアニキのような存在なのだ。

 自らDJをやっていた経験もあり、サブカルから政治哲学まで、その守備範囲はとてつもなく広く、鈴木さんの師匠である宮台真司氏を彷彿(ほうふつ)とさせる。全3回でお送りする鈴木謙介さんへのインタビュー第1回目は「閉塞感」について。

閉塞感に直面する日本

関西学院大学准教授の鈴木謙介氏

 「銘々が自分の都合のいいイメージの中で社会というものをとらえて、例えば自己責任論にはまり込んでしまったり、あるいは自分の考える良い社会っていうものの中に閉じこもってしまったり、という現象が起きている」。鈴木さんは私たち1人1人が持っている“社会”のイメージが分断されていることを指摘する。

 社会イメージが分断されていれば、見通しは悪い。例えば不当な職場環境で苦しんでいても、それが正当な主張なのか、自分のワガママでしかないのか、分からなくなる。「不当に扱われているという個人の状況が、社会と切り離されているがゆえに生きづらいのに、そもそも『社会と切り離されている』と気付く回路がない」。

 「自分の持っている社会イメージというものを、打破できない、突破できない。あるいは、社会というものが本質的な意味で変えられない、という風にあきらめている。そこに閉塞感があるような気がするんですね」と鈴木さんは言う。

 私たちが突破すべきものとは何か。

 ある程度の発展を遂げた先進国はどこも、従来の生き方のモデルが崩壊し、変化に直面せざるを得なかった。だが、日本はそれまでのモデルがさまざまな要因から延命されてしまったという。

 「国は企業を護送船団方式で守り、その企業が従業員を守り、その従業員の男性が専業主婦の奥さんと子どもを守りっていう順番で、生活を支えるモデルを作ってきた」。高度成長期に作られた企業、地域、家庭、男性、女性の“普通”がなかなか打ち破れない。「とっくに機能しなくなっているシステムが、ゾンビみたいになって生き長らえている、それ以外の道が見えない……」と、鈴木さんは嘆く。

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