吉野家はなぜ苦しんでいるのか? 5つの仮説を考えた郷好文の“うふふ”マーケティング(3/3 ページ)

» 2010年04月22日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]
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仮説4:吉野家は滞在時間単価が高い

 仮説3にも関連するのが“滞在時間単価(客単価÷滞在時間)”である。店に入る。「並、味噌汁」「ありがとうございます!」「並1丁、味噌汁1杯!」「お待ちどうさまでした!」。「があーっ」と食ってパッと立ち去る。これがあるべき牛丼作法なのだが、不況のせいで牛丼の後にカフェ休憩もなくなった。「があーっ」の所要時間は5分、並盛り+味噌汁430円なら1分86円のランチである。

 ライバルのマクドナルドはどうか。ベーコンレタスバーガーセット590円として、20分粘れば1分29.5円。滞在時間単価は吉野家より安い。しかもマクドナルドにはコンセントもあり、ネットができたりと滞在時間を有意義に過ごせる。マクドナルド躍進のウラには「おひとりさま外食を低コストで機能的に楽しもう」という倹約心が働いている。

この原稿はマックでMacで書いている。

仮説5:あの“吉野家リズム”が失われた

 “吉野家リズム”とは何か?

 昼12時、吉野家には次々とお客さんがやってくる。「並」「並と卵!」「特盛、つゆだくだくで」「大盛と味噌汁」「ネギ抜きして」……と10人以上の注文を1人でとるのがカウンタースタッフ。すべて余すところなく記憶して、迷うことなく厨房に「並1丁!」「特盛2丁、並1丁、たまご1つ!」と伝える。聞き返されれば「都合特盛2丁、並2丁!」と累積情報も返答。迷うことなく丼を配り、精算客にもいち早く気付き、片付けながら待ち客を誘導し、すぐに注文をとり、厨房に伝える……。

 この一連のリズムこそ吉野家リズムである。このリズムがない吉野家に遭遇すると(注文の間合いが悪く、「お客さん、並でしたっけ?」と確認して配る店員のことだ)、とても味気なかった。そう、“なかった”という過去形なのが問題なのだ。ご存じの通り、今の吉野家には注文紙がある(牛丼単品店を除く)。それが吉野家減速の主犯じゃないかと思う。

 吉野家リズムとは、吉野家のスーパーな店員とお客が煮詰めた牛丼文化であった。安部社長は同店のアルバイトの時、きっとスーパーな店員だったはずだ。

吉野家クラシック店を出して!

 私としては仮説5がもっともらしいが、実際は複合的な要因だろう。価格競争のせいだけにすると対策を間違う。かつて味を変えて失敗したコカ・コーラが“クラシック”に原点回帰したように、“吉野家クラシック店”を出してほしい。牛丼単品とスーパーな店員で威勢の良い店を増やしてほしい。なぜなら吉野家の原点は「うまい」「やすい」「はやい」なのだから。

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