吉野家はなぜ苦しんでいるのか? 5つの仮説を考えた郷好文の“うふふ”マーケティング(1/3 ページ)

» 2010年04月22日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の開発、海外駐在を経て、1999年〜2008年までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略など多数のプロジェクトに参画。2009年9月、株式会社ことばを設立。12月、異能のコンサルティング集団アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。コンサルタント・エッセイストの仕事に加えて、クリエイター支援・創作品販売の「utte(うって)」事業、ギャラリー&スペース「アートマルシェ神田」の運営に携わる。著書に『顧客視点の成長シナリオ』(ファーストプレス)など、印刷業界誌『プリバリ[印]』で「マーケティング価値校」を連載中。中小企業診断士。ブログ「cotobike


 吉野家が再び危ない。

 親会社である吉野家ホールディングスの2010年2月期連結決算を見ると、最終損益は89億円の赤字。不採算店舗の増加と関連事業の不振が重なり、減損損失を86億4100万円計上。「ステーキのどん」で発生したO-157食中毒事故によって焼肉・ステーキ事業は16億円の営業損失、寿司事業の4億円の損失も響いた。

 だが、最大の問題は旗艦事業である牛丼店の不振にある。既存店売上高は前年比8.4%減、来客数の減少で営業利益は2009年2月期の64億円から24億円と実に6割減。BSE問題で不振を極めた2005年2月期以来の赤字決算に陥った。まさに紅生姜の赤さが心に染みる、といった感じだろう。

出典:吉野家

 不振の原因は「牛丼業界の“利益なき安売り競争”にある」と言われている。380円の並盛りが割高感を持たれて、客離れ。そこで4月中旬に牛丼110円引きセールで巻き返したが、すき家と松屋はさらなる低価格カウンターパンチを放ち、吉野家の業界最安値はわずか2日間だけ。マクドナルドがむしろ高価格勝負でヒットを飛ばす中、つゆ切れの悪さが目立つ。

 BSE危機の時には“最後の牛丼”がニュースで放映され、レトルト牛丼にもプレミアムが付き、吉野家を応援する社会現象まで起きたのに、今回の危機ではスルーされている。

 吉野家ホールディングスの安倍修仁社長は、子会社である吉野家社長も兼務し、現社長は副社長に降格。グループ6社の本社を東京都北区に移転集約し人員もスリム化、固定費削減で体質強化を図りつつ、中国展開の加速で2010年度の黒字化を目指す。

 安売り競争が利益減少を招いたのは間違いない。成長市場の中国展開も進めるべき。だが、私は危機の根幹に、牛丼という商品をめぐる消費者意識に大きな変化が訪れたことがあるような気がする。“うふふマーケティング”的(消費者と供給者の真ん中から考える)に、吉野家苦境の仮説を挙げてみよう。

吉野家ホールディングス営業利益・当期利益
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