苦しい時こそ筋を通す――リコール騒動を巡るトヨタのサプライヤ対応(1/2 ページ)

» 2010年04月21日 08時00分 公開
[中ノ森清訓,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:中ノ森清訓(なかのもり・きよのり)

株式会社戦略調達社長。コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供している。


 自動車部品を巡るリコールで記憶に新しいのは、2000年に行われたフォードによるエクスプローラーに標準で装着されていたブリヂストン・ファイアストンのタイヤ1440万本のリコールです。この時、「問題は車ではなく、タイヤだ」と、当時フォードCEOだったジャック・ナッサー氏は、この問題の非を一方的にブリヂストン・ファイアストンに一貫して押し付けました。

 当初、フォードと共同で問題の解決を図ろうとしていたブリヂストン・ファイアストンも、フォードの一方的な対応に業を煮やし、2001年5月にフォードへのタイヤ供給打ち切りを宣言します。業績低迷やタイヤ事故問題によるイメージ悪化に伴い、2001年10月にナッサーCEOは辞任に追い込まれ、その後の裁判でエクスプローラーの設計上の欠陥が指摘されるなどした後、2005年10月にブリヂストン・ファイアストンが約275億円の和解金をフォードに支払うことで、ようやく和解します。

 この間、5年もの年月が費やされましたが、リコールのきっかけとなった事故の原因はタイヤにあるのか、車両設計にあるのか特定されず、その間、それまで100年続いていた両社の取引は停止されたままでした。

 トヨタは、このケースに学んだのか、アクセルペダルが戻りにくくなる不具合、プリウスのブレーキの不具合のいずれにおいても、これまでのところ、サプライヤに非を押し付けるのではなく、「自社の設計の問題」と発表しています。それのみならず、アクセルペダルの部品サプライヤであるCTS社について、その技術力や品質を擁護する発言や、CTSとの取引を継続することを明言するなど、非を押し付けるどころか、関係に配慮した発言を続けています。

 そうした姿勢が評価されてか、トヨタのリコール問題が取り沙汰された後、1月に行われた米国の調達・購買担当者を対象とした調査では、トヨタのリコール問題により、「取引先からのトヨタの評価は変わらない」が57%、「取引先からの評価が上がる」が14%、「取引先からの評価が下がる」が29%となり、取引先からの評価はあまり下がっていないことがうかがえます(出所:Purchasing March 2010)。

 調査では29%が「取引先からの評価が下がる」と回答していますが、これはトヨタの対応に問題があったというよりも、消費者の製品メーカーに対する品質評価が下がることを懸念してのことと推察されます。それより着目すべきは、リコール問題の発生という評価が上がるべき要素のない中で、14%が「取引先からの評価が上がる」と回答していることです。それだけ、トヨタの今回のCTS社についての対応が公正であったと言えます。

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