世の中に必要なヒトたちちきりんの“社会派”で行こう!(2/2 ページ)

» 2010年04月19日 08時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]
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異なるタイプの人を育てるのは難しい

 さて、社会が永続的に機能していくためには、一定の比率でこれらすべての人が必要です。

 「壊す人」が多すぎると混乱するし、「創る人」が多すぎるとアイデア勝負で楽しいですが何も進まない。「回す人」しかいないと、最初はいいものの、次第に面白みのない社会になり行き詰まります。「管理する人」はパラサイト民族で、多数の「回す人」がいないと存在意義が発揮できません。「考える人」が多すぎても世の中は動きません。また「何もしない人」たちの存在は社会にリアリティを与えている一方、全員が何もしないと社会は動きません。

 大事なことは、社会、会社、地域、学校、クラスなどあらゆる“コミュニティ”に、これらの人たちがバランスよく混じっていることです。

 ところが日本のように中央集権的な国では、義務教育は中央が設定した統一的な思想や制度に基づいて行われ、教師も同一基準で選抜されます。そのためどうしても同じタイプの人ばかりを生み出しがちになり、異なるタイプの人をバランスよく育てるのは容易ではありません。

 そんな場合、本来は大学からの高等教育において、各大学や専門学校が「自分の学校はどのタイプの人を育てたいのか」というビジョンを明確に示し、それに興味がある学生を集め、それぞれの基準で選抜して入学させ、最適なカリキュラムを設計するべきです。

 でも実際には、高等教育までもが長らく文部科学省の方針の下、みんなで同じことをやってきたため、とても画一的になっています。この点、最近の大学法人化によって大学の自主権、自由度は高まっているはずなので、今後は一層の規制緩和を行い、より個性的な大学が現われてくることに期待したいものです。

「壊す人」と「考える人」はもう少し増えるべき

 また、全体のバランスを見ると、今の日本にもう少し増えるべきと思うのは、「壊す人」と「考える人」です。

 日本には昔から、「創る人」は継続的に一定数現れています。そして多数の優秀な「回す人」と「管理する人」が、その一部の「創る人」のアイデアを現実に結実させ、高度成長と先進国化を実現してきました。でも今は、この国のあらゆる制度が制度疲労を起こし始めています。こうなってくると必要なのは「壊す人」であり、壊して創るプロセス全体の道筋を示すことができる「考える人」です。

 実は、小泉純一郎氏と竹中平蔵氏は、典型的な「壊す人」と「考える人」の組み合わせでした。この2人が率いる体制に当時多くの人が期待したのは、大胆な創造的破壊への期待が持てたからでしょう。しかし、「回す人」と「管理する人」が圧倒的多数である日本社会では、今は彼らを一方的に否定する論評も多いようです。

 「壊す人」は「あいつは壊すだけ。何も創らない。壊される側の人の痛みが分からない」と非難されるし、「考える人」も「口が達者で難しいことを言っているだけ。机上の空論だ。現実を見ていない」と言われます。

 そう非難する人も実は「回しているだけ」か「管理しているだけ」です。つまり、人にはそれぞれ役割があるのです。でも、「“創って”、“回して”、“管理して”、“壊して”、“考える”の各プロセスを異なる人が分担すればよい」という意識がないため、「(管理することには価値があるが、)壊すだけの人には価値がない」という話になりがちです。

 こうなるともともと少ない「壊す人」や「考える人」をリーダーシップポジションから排除してしまおうという力が働き、日本は「回す人」と「管理する人」ばかりがかじ取りをする社会になってしまいます。

 今必要なこと、それは「社会には“創って”、“回して”、“管理して”、“壊して”、“考える”というさまざまな能力を持つ人が必要」と認識することです。そして、1人の全知全能なリーダーを夢見るのではなく、それぞれの部分を得意な人が分担して進めていけばよいのだと考えを変えるべきだということです。そうすれば、壊すことにも考えることにも、回すことや管理することと同等の価値があると認めることができます。

 これができないと、「立て替えをせず、改修と上塗りだけで時代の変化を乗り切ろうとして、ぐちゃぐちゃになってしまった古い旅館」のような社会のまま、日本が朽ちてしまうことになりかねません。それでも私たちはいつまでも、「立て替えはしたいけど、壊すのはイヤ」と言い続けるのでしょうか。

著者プロフィール:ちきりん

関西出身。バブル最盛期に金融機関で働く。その後、米国の大学院への留学を経て現在は外資系企業に勤務。崩壊前のソビエト連邦などを含め、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログを開始。

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