「走りながらマーケティングする」――データに支えられたソーシャルゲーム運営野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(3/3 ページ)

» 2010年04月16日 08時00分 公開
[野島美保,Business Media 誠]
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ソーシャルゲーム運営での重要な指標

 ソーシャルゲームに携わる人が最低限知っておくべき数値を整理しよう。広告収入とユーザー課金収入それぞれについて構成する指標があり、それらを掛け合わせていくと、売上高を算出できる。

1.登録ユーザー数

 広告収入でもユーザー課金の場合でも、その後すべての指標の母数となる。会員数が多いSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に展開すれば、多くの登録ユーザー数が期待できる。自社アプリの登録を増やすには、アプリの分かりやすさや新奇性、インバイト機能の実装などの「フック」の施策が効いてくる。

2.アクティブ率(AU:Active User)

 次は、登録ユーザーから実際にプレイをしているユーザーに絞る段階である。実は、会社やゲームによって、この測定はまちまちである。何をもってゲーム離脱(非アクティブ)とするかの判断が一律ではないからである。月間アクティブユーザー(MAU:Monthly Active User)が、ゲームの規模を示すために公表されることが多いが、社内の管理指標として用いるには、より短いスパンが良いだろう。

3.課金率(PU:Pay User)

 ここからはユーザー課金の指標を見ていこう。第3段階は、課金ユーザーの把握である。課金率を向上させるには、一度でもいいのでユーザーに財布のひもを開いてもらうことが重要。つまり、ゼロからイチへの質的な変換が求められるのだ。お金を払ってプレイするという価値観、インターネットで決済をするという経験。最初の支払いはどんなに僅少であってもよい。その最初の一歩をどう踏み出させるかが、課題である。2月号コラムで紹介した「欲を生み出す」ゲーム作りは、課金率を上げるための1つの解法である。

4.ARPU(Average Revenue Per User)

 課金ユーザーの数に月客単価(ARPU)を掛け合わせれば、月売上高を算出できる。ARPUは、ゲームに限らず携帯通信キャリアの支払いなどにも広く使われており、馴染みがある指標だろう。一般的に「ゲームに熱中するほどARPUが高くなる」と言われるが、ARPUを高めるのは諸刃の剣である。あまりに高額の請求をしてしまうと、支払うことのできるユーザーが限られ、課金率が下がるという弊害が出てくるからだ。

5.定着性

 最後に忘れてはならないのが、定着性である。課金率が高くARPUも高い、そんな良い状況をどれだけ保つことができるか。たった1カ月限りなのか、その状態が1年続くのか、それによって総売上高は変わってくる。

どこがボトルネックになっているのか

 今回紹介したのは、管理会計の領域にあたる基本的な指標である。実際には、特定のゲーム内行動を毎分観測するような、より細かな計測が必要になるだろう。ゲーム内行動の詳しい論点については、別の回で話していきたい。

 これらの数値は、日次や週次で集計して前回比を出す縦割り集計だけでは、効果は薄い。ゲーム設計にフィードバックさせるために、ユーザーの成長プロセスという横の軸を念頭におきたい。誰に誘われて登録し、どこに熱中して、どんな頻度でプレイし、いつ何に対して支払いをしたのか……。「どこがボトルネックになっているのか」を考える仮説検証スタイルが今、求められている。

野島美保(のじま・みほ)

成蹊大学経済学部准教授。専門は経営情報論。1995年に東京大学経済学部卒業後、監査法人勤務を経て、東京大学大学院経済学研究科に進学。Webサービスの萌芽期にあたる院生時代、EC研究をするかたわら、夜間はオンラインゲーム世界に住みこみ、研究室の床で寝袋生活をおくる。ゲーム廃人と言われたので、あくまで研究をしているふりをするため、ゲームビジネス研究を始めるも、今ではこちらが本業となり、オンラインゲームや仮想世界など、最先端のEビジネスを論じている。しかし、論文を書く前にいちいちゲームをするので、執筆が遅くなるのが難点。著書に『人はなぜ形のないものを買うのか 仮想世界のビジネスモデル』(NTT出版)。

公式Webサイト:Nojima's Web site


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