貧困ビジネスとは何か? 低所得者を喰う者たち(前編)(2/3 ページ)

» 2010年04月15日 08時00分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

 金融の分野にはサラ金やヤミ金があったり、労働では悪質な人材派遣会社があったりする。また住宅ではいわゆるゼロゼロ物件(敷金、礼金なしで入居できる物件)があったり、福祉の分野でも悪質な無料低額宿泊所があったりする。1つ1つを見てみると、バラバラで存在している。しかし貧困という枠で見てみると、バラバラに活動しているビジネスがつながってくる。つまりヤミ金や悪質な人材派遣会社、ゼロゼロ物件などは貧困層をターゲットにし、貧困を固定化する役割を果たしているのだ。

カギは「住宅」

『世界』(岩波書店、2008年10月号)

 貧困ビジネスは金融や福祉などさまざまな分野に広がっているが、その中でもキーになるモノがある。それは住宅だ。なぜ住宅がキーになるかというと、住む所がなくなれば人は無抵抗になるから。

 仕事を辞めれば収入がなくなるので、当然、生活が苦しくなってくる。しかしそれよりもさらに問題なのが、住む所を失うということだ。逆に言うと、住宅さえ押さえてしまえば、強い支配力を持つことになる。貧困ビジネスというのはさまざまな分野に及んでいるが、住宅にからんでいるケースが多い。無料低額宿泊所しかり、囲い屋(部屋と食事を提供する見返りに生活保護費の大半を天引きするビジネス)しかり、追い出し屋(家賃滞納者を強引かつ暴力的な手法で追い出す業者)しかり。また飯場(はんば:建設現場などの労働者のために、現場付近に設けられた宿泊設備)については、食と住居が一体化している。

 例えば「エム・クルー」という人材派遣会社は、かつての飯場をブラッシュアップしたようなもの。この会社は建築現場に人を派遣しながら、偽装請負を行っていた。エム・クルーはレストボックス(家のないフリーターが安く宿泊できるホテル)を持っていて、そこに泊まっている人に仕事を紹介していたのだ。また不動産会社「スマイルサービス」という会社は、敷金ゼロ、礼金ゼロ、保証人不要を強調。低所得者でも安心して入れますよ、ということをうたい文句にしていた。

 住み込みの仕事というのは、自分の大家と社長が同一人物であることが多い。大家による支配力、社長による支配力――この2つの力を兼ね備えているので、とても強い。そして大家兼社長はその強い力を背景に、いろいろなことを言ってくる。もし彼らに抵抗すれば、住む所と職を失うかもしれない。なので必然的に、言いたいことが言えなくなってしまう。そして大家兼社長は、低所得者の弱みにどんどんつけこんでいくのだ。

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