貧困ビジネスとは何か? 低所得者を喰う者たち(前編)(1/3 ページ)

» 2010年04月15日 08時00分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

 日本社会に広がりを見せている「貧困」。仕事を失い、家を失い、人間らしい生活を送ることができなくなるまでに追い詰められた人たちが増えている。いまそこにある貧困に対し、NPO自立生活サポートセンター「もやい」で事務局長を務める湯浅誠氏はどのように見ているのだろうか。

 →貧困ビジネスとは何か? 低所得者を喰う者たち(後編)

湯浅誠(ゆあさ・まこと)氏のプロフィール

1969年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。1995年より野宿者(ホームレス)支援活動を行う。2001年5月、NPO法人自立生活サポートセンター「もやい」設立、事務局長就任、2007年10月、反貧困ネットワーク設立、事務局長就任。

著書に『本当に困った人のための生活保護申請マニュアル』(同文舘出版)、『貧困襲来』(山吹書店)、『反貧困 「すべり台社会」からの脱出』(岩波書店)などがある。


※本記事は日弁連シンポジウム「貧困ビジネス被害を考える〜被害現場からの連続報告」(4月12日開催)で、湯浅氏が語ったことをまとめたものです。

貧困ビジネスの定義

湯浅誠氏

 「貧困ビジネス」とは、どういったことを指すのかご存じだろうか。たまに誤解されていることがあるが、貧困ビジネスとは「貧困層をターゲットにしていて、かつ貧困からの脱却に資することなく、貧困を固定化するビジネス」という意味。そもそも貧困ビジネスという言葉は私が考えたものなので、これが正式な定義と言っていい(笑)。

 貧困層をターゲットにしているさまざまな活動には、いいモノも悪いモノもある。しかし私が呼んでいる貧困ビジネスとは、貧困状態を固定化したり、貧困からの脱却に資さない、そういった悪いビジネスを指している。なので定義上、良い貧困ビジネスというモノはない。貧困は克服されなければいけないモノであって、貧困ビジネスも克服されなければいけないのだ。

 貧困に関してはいくつかの特徴があるが、まず「複合的」であることが挙げられる。さまざまなトラブルが折り重なって起きていて、「五重の排除」から成り立っている。五重の排除というのは、家族、教育、企業、公的から排除されるということ。さらに自分の尊厳が守れず、自暴自棄になる――つまり自分自身からも排除されてしまう。

 その結果、いろんな分野でトラブルが複合的かつ必然的に起きてしまうのだ。複合的なトラブルというのは、労働、金融、住宅、福祉のトラブルであったりする。例えば、当座のお金がないためにハローワークに行っても、月払いの仕事を選ぶことができない。そういう人は必然的に日払いや週払いの仕事をせざるを得ない。それは本人が選ぶ、選ばないという問題ではなく、本人に選択の余地がないということ。

 そして月々の家賃のほか、敷金、礼金を支払えない人たちは、安い宿を渡り歩くしかない。サウナやカプセルホテルなどで泊まるわけだが、こうした行動も本人に選択の余地はない。複合的なトラブルを抱える――これが貧困の特徴だ。このような状況に追い込まれる人たちは、障害者であったり、ドメスティックバイオレンスの被害者であったり、多重債務者であったり、生活保護者であったり、いろいろな人たちの間で起きている。

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