iPadの分解結果が示す、既存の調達・購買管理論の終焉(2/2 ページ)

» 2010年04月14日 08時00分 公開
[中ノ森清訓,INSIGHT NOW!]
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日本企業がとるべき方向性は?

 今でも、日本はトヨタ自動車の世界的な成功を例に、「部品メーカーとの固定的な関係を軸としたすり合わせ(インテグラル)なモノ作りでの品質競争に比較優位を有する。これからもこの強みを生かしてグローバル市場で競争していくべき」という論調が、「昔は良かった」という郷愁と相まって、根強い支持を得ています。

 しかし、iPadに象徴されるように、日本が得意としてきたモノ作りの世界でも、顧客が価値を認める品質差というのが世界的に縮小しており、あらゆる製品・サービスのライフサイクルの短縮化が進む中、昔の自動車のようなインテグラルでマスな市場というものは、どんどん減少していくことが予想されます。

 すると、日本の大企業が取りうる今後のモノづくりが目指すべき方向性としては、これまでの強みを生かした(1)インテグラル型×ニッチ市場か、これまでの市場を生かした(2)組み立て(モジュラー)型×マス市場のいずれかの方向になります。

 「産業機械はどうだ。コマツみたいに世界で圧倒的に強い日本企業はまだあるぞ」といった反論はあるかもしれませんが、工作・産業機械でも、韓国・中国企業の追い上げがきつくなっています。コマツはある意味特殊で、「一般的な傾向の話をしている時に例外ケースを出されても」の感があります。反対にそのような主張をされる方には、コマツ以外でグローバルにマス市場を抑えているインテグラル型企業を相当数挙げていただきたいと思います。

 実際には現在のコマツの成功は、顧客に代わって建機の稼働状況をモニタリングし、適切なメンテナンスを行うというサービス化によるものであって、これもインテグラル型のモノ作りによる品質だけでは、顧客に価値を認めてもらえなくなっていることの別の形での表れと言えます。

 加えて、大企業はその固定費負担からニッチ市場に向きませんので、やはり、今後の日本の大企業のモノ作りの方向性としては、モジュラー型×マス市場への対応がメインになるのではないでしょうか? モノ作りの方向性がそのように変わるのであれば、調達・購買もモノ作りを支える1つの機能ですので、その方向性に合わせて変化する必要があります。

 これは、中長期的な資源高と相まって、高度成長期に活躍された自動車・電機メーカの出身者の方々がつちかってきた、「買い手企業の圧倒的に強い立場」や「気心の知れたサプライヤとの長期的関係に頼ったすり合わせによる段階的なコスト低減」を前提としたこれまでの調達・購買管理論が終焉を迎えたことを意味します。

 これからは、買い手企業とは少なくとも対等、状況によっては数多ある顧客候補のうちの中・下位の1社とこちらを見ていて、それぞれの取引で合理的でないと取引をしない海外サプライヤを相手に、グローバル最適調達を、顧客の変化に合わせてスピーディに実現することを前提としたまったく新しい調達・購買管理論に基づく調達・購買が必要とされているのです。

 「あなたは、この調達・購買管理論の前提がまったく変わってきていることへの備えは出来ていますか?」

 iPadのテアダウン結果は、そのように問いかけているように見えます。(中ノ森清訓)

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