著者プロフィール:郷 好文
マーケティング・リサーチ、新規事業の開発、海外駐在を経て、1999年〜2008年までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略など多数のプロジェクトに参画。2009年9月、株式会社ことばを設立。12月、異能のコンサルティング集団アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。コンサルタント・エッセイストの仕事に加えて、クリエイター支援・創作品販売の「utte(うって)」事業、ギャラリー&スペース「アートマルシェ神田」の運営に携わる。著書に『顧客視点の成長シナリオ』(ファーストプレス)など、印刷業界誌『プリバリ[印]』で「マーケティング価値校」を連載中。中小企業診断士。ブログ「cotobike」
サッカー人気が危ない。
4月7日に長居スタジアムで行われた日本代表のワールドカップ壮行試合、対セルビア戦は人気の陰りを象徴する試合だった。日本代表のボール支配率は70.3%と非常に高かったものの、ゴールが遠い。点が入らない。試合は完敗。寒い中観戦したお客さまを前にあの試合じゃあ……。
「CSKAモスクワで日本人離れした戦闘能力を発揮する本田圭佑を軸にせよ」「独特のリズムを持つ石川直宏を起用せよ」など、疑問だらけの選手起用にヤマほど言いたいことはあるが、私はセルジオ越後ではない。遠吠えは控えよう。
憤怒とは別に、気になることはヤマほどあった。5万人収容スタジアムに観客数は4万6270人とほぼ満員。チケットは1週間前に完売したそうだ。国内開催の国際試合、最近の観客動員は2万人前後と閑散していたのに完売だから、「本番に向かって人気復活ののろしが上がったか?」と思いきや、テレビの平均視聴率は8.3%と低迷。試合はどんどんバックラインが下がるジリ貧の内容で、同胞間でパス回しばかりでゴールを攻めない内向きサッカー。代表の内向きサッカーを見ていると、内向きの日本経済と重なり合った。
なぜ、私たちはサッカー代表の試合で“国威高揚意識”が持てなくなったのか。サッカー人気の陰りのウラには、今の世相が反映しているのだ。
「もう第二の成長なんてないんですよ。そんな意識は今の日本からなくなった」
先輩コンサルタントがそう言うのを聞いてハッとした。これまで“第二の成長”というキーワードで、既存市場の“落下放物線”からピックアップするために、新市場に活路を見いだし、不況から脱出するコンサルティングをしてきた。ところが昨今の顧客や引き合いの内容を見ると「勝とう」「伸びよう」という意識が全体に希薄。「今のシェアを守ろう」「ジリ貧をまぬがれよう」、そんな経営者が増えた。
携帯デバイス1つとっても、話題のiPadには韓国企業の部品があふれ、液晶デバイスでも優位性が低下し、携帯電話メーカーは国際競争の波間に消えようとしている。「欧米に学べ」で成長時代をつくった1950年代を範にとれば、今「中国や韓国に学べ」が正解なのだが、歴史的なコンプレックスが邪魔しているのか素直になれない。企業社会でも勝ち負けを争うことなく、厭戦ムードが広がりつつある。
この国のそんな事情を若者はよく観察してる。冒険をしても見合わないことを知っているから、もはや留学も起業もしなくなった。仕事は堅実に、生活は身の丈レベル、攻めなくてもいいんだと。こうして世界市場の回復から取り残されている。
そんな中、「立ちあがれ日本」という平均年齢70歳の老人新党が発足したのは、実に象徴的。彼ら1950年代を知る世代は「もう一度立ちあがろう」と言う。だが中年も若者も、冷ややかでまったく呼応しない。これが今の日本のリアリズムだ。
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