もはや映画宣伝に“王道”はない――『東のエデン』に学ぶ、単館上映ビジネス(後編)(4/6 ページ)

» 2010年04月09日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

2万9400円の特製ジャンパーが600着以上売れた

斉藤 劇場公開された時に関連商品を売られましたが、売り上げはいかがでしたか?

石井 これまででは考えられないような数が出ていますね。関連商品はビデオグラムや映画の興行と比較して、それほど高いロイヤリティーでやっているわけではないのですが。

 一番驚いたが、ジャンパーです。主人公の滝沢朗がM-65というジャンパーを着ているのですが、実際にモデルにしたブランドがあり、なるべくそれに近いものを出したいということで素材などにこだわって、2万9400円で売り出したんです。アニメの関連商品としてはかなり高いので、「まあ50着くらいかな」と思っていたのですが、あっという間に600着を超えたのです。

 何が起きたかというと、みなさんがそれを着て、劇場に見に行っているというんですね。今、日本は厳しい状況で、財布のひもは緩んでいませんが、その分、「何にお金を払うか」という動機探しをみなさんしていらっしゃると思うんですよね。だから、そこを考えていくことは非常に大切だと思います。

出典:PARCO CITY

 作品に出てくるノブレス携帯を作ってほしいと、NECの方と何度もお話ししているのですが、冗談ではなく開発費が100億円かかるらしいんですね。丸い液晶というのは技術的にとても難しいらしいです。

 ユナイテッドシネマ豊洲で販売している“もうほっといて”クッキーも好調です。1個550円で、さすがの僕も「それはちょっと暴利でしょ」と言ったら、「いや、これ全部手作りなんです。東のエデンカフェに来てくださっている方々には必ず買っていただけますよ」と言われたのですが、フタを開けたらほぼ売り切れになってしまっているようです。あれも原価ギリギリらしいので、ビジネスになっているというよりは、「みなさんに楽しんでいただければ」ということですね。小規模公開作品の一番の醍醐味というのは、そこだと思います。

“もうほっといて”クッキー(出典:ユナイテッドシネマ豊洲)

斉藤 7スクリーン(劇場版パート1)や15スクリーン(劇場版パート2)で上映していくということになると、ある種のイベント性を持たせないといけないので、先ほどおっしゃったオールナイト上映のようなことを、最初からいろいろ仕組んでいくわけですよね?

石井 そうですね。だいたい1カ月くらい前から週末に、宣伝プロデューサーと「あれやりましょう」「これやりましょう」とお互い忙しいのでメールでやりとりをしていって、ほぼ思い付きで決まったものもあれば、宣伝プロデューサーが考えてきてくださったものもあります。

 また、幸いなことに『東のエデン』は写真家や映画監督、作家の方々が楽しんでくださっていて、ご自身のイベントで「『東のエデン』のPRをやりたい」という依頼があったりして、そこには「ありがとうございます」ということで積極的に参加しています。

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