デジタル化した世界で、人の嗜好はアナログ化する――『東のエデン』に学ぶ、単館上映ビジネス(前編)(4/5 ページ)

» 2010年04月08日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

テレビシリーズと劇場版の関係

氷川 2009年ころまでのテレビアニメと劇場アニメの関係は、テレビシリーズがまず成功を収めることによって、ある程度の観客動員数が見込めるという前提に立って、テレビシリーズを原作に劇場アニメとしてリメイク、もしくは続編を作るというものだったと思います。そのため、スタッフを発奮させるために、「テレビシリーズがヒットすれば劇場アニメになるからな」と言っている制作現場もあると聞いています。

 しかし、『東のエデン』ではテレビシリーズがスタートした時点で、すでに「終わった後に映画を2本やります」と決めていたことが新鮮だったんですね。これは過去にないようなことなので、最初からテレビシリーズと劇場版をカップリングで組み込むに至った経緯を教えていただけますか。

石井 アニメの現場はどうしても日々、場当たり的に決めるところが多いので、何か緻密な戦略があったというわけではありません。実はもともと2クール(6カ月)のテレビシリーズで制作する、という前提で企画を進めていました。ところが僕らはある時期に、2クールで深夜のかなり遅い時間に放送するか、ノイタミナ枠で1クールで放送するか、という決断を迫られました。その時、脚本はもう第5話の決定稿まであがっていたのですが、監督とどこかのレストランで夕食を食べながら、「この作品は多くのお客さんに見ていただくために始めたものなので、ノイタミナ枠という多くの人に見ていただける枠でやりたいです」と言ったら、監督もそれに同意してくれたんですね。

 しかし、そうなると1クール(3カ月)に話が収まりきらないので、「収まりきらない分のエピソードをどう描くか」ということになります。ただ、幸いなことに映画の配給も行っているアスミック・エースが制作委員会に入っていて、フジテレビの山本幸治プロデューサーも「いつかノイタミナ作品を映画でやりたい」と話しており、私たちも最後まで作品を作りきりたいし、むしろ僕は「劇場作品を作りたい」と思っていたので、「それでは劇場で後半を公開しましょうよ」ということで合意したという経緯がありました。

氷川 テレビと映画で別々に公開するとなると、テレビシリーズでいったん終わらせて映画で続編を描くのか、もともとの2クールで想定していた26話前後を単純に2つ、ないしは3つで割る形で描くのかということを考えると思うのですが。

石井 前者を選びました。神山は「いかにお客さんに面白がってもらえるか」ということを非常に考える監督なので、テレビシリーズのラストで「(ある程度の結末を描かずに)続きは劇場で」ということをしてしまってはいかんということです。(テレビシリーズの最終回で中途半端で終わって劇場版の案内をしたために)少し紛糾していた作品が当時あったんですね。それを横目で見ながら、「これはやっちゃいけないな」ということで、テレビシリーズでもクライマックスが作れるように、神山が脚本を1回捨てて、11話分書き直しました。

 さらに劇場版は2部構成なのですが、劇場版パート1でも劇場版パート2でもクライマックスを作るようにしました。神山はよく「監督にこんなに優しくない作品は初めてだ」という言い方をするのですが、3回最終回を作ったようなもので、これは神山とスタッフの苦労の賜物です。現場では3本の作品を作ったという実感で、1本終わるたびに、もう1本始まるぞという状況でした。

斉藤 テレビで放映すると、視聴率という形で成功か、失敗かという結論が出されると思うのですが、それに関わらず劇場版をやろうと決めていたのですか?

石井 それは決めていました。ただ、「仮にテレビシリーズが視聴率的に厳しかったらどうしよう」という思いは常にありました。

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