「気持ち、読んでる」、西友の「KY」絶好調!それゆけ! カナモリさん(1/2 ページ)

» 2010年03月30日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2009年3月26日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


東京KY生活

 総合スーパーが長期的な低迷に苦しむ中、一人、気をはいているのが西友だ。世界最大の小売業、米ウォルマート・ストア―ズの傘下に入り7年。2008年12月期まで7期連続で最終赤字が続いていたが、2009年の既存店売上高は0.3%増。イオンやイトーヨーカ堂が前年割れする中、復活ののろしを上げ始めている。その西友のコミュニケーション戦略が実にKYなのだ。

 同社は「KY」というキーワードを前面に押し出している。同社の特徴である「カカクヤスク」「クラシヤスク」という2つのメッセージを分かりやすく伝えるためだ。「東京KY生活」なるホームページも存在する。

 まずはこのCMから見てみよう。「新生活のうた編」だ。

 「西友にとり、あえ〜ずいけあ♪」。陽気な外人新婚夫婦が西友で次々と新居のアパートに家具・雑貨を運び込む映像のバックで、ちょっと舌足らずな男の子の歌声が響く。「だって家具や雑貨も安いんだもの。新生活も西友」と、続けてアナウンス。「西友に、取りあえず、行けや!」と、生活用品を買い揃える価格・利便性をアピールしているのだが、明らかに「ニトリ」「IKEA」と聞こえるように狙っている。

 狙いの1つは「西友でも扱っているけど高い」と思われている商品カテゴリーに注目させることにある。2009年3月には、「シャンプーと洗剤を買ったっけ?」という夫に、妊婦の妻が「そういうのは西友では買わない!」とピシッと言うCM「夫婦編」を放映した。同7月には、当時話題のギャルの「盛りヘア」をパロディーに使ったCM「盛ってます編」で「KY=クラシヤスク」を訴求した。

 今回とまったく同じ狙いだったのは、「盛ってます編」の1つ前の「バッタリ編」だ。

 「『コジマさーん』『ヤマダさーん!』『あ、ビックさん!』『ハーイ!』『タカタさん!』『どうしたの、みんな西友にあつまっちゃって!』。だってスーパーのテレビがスーパー安いんだもの。家電も安く。西友』

 「家具・寝具・雑貨などの生活用品は西友は高い」という認識を払拭(ふっしょく)するだけでなく、「専門店のニトリ・IKEAと同等以上に安いのだ」という訴求のため、あえて他社の社名を想起させているのである。

 「どうせ西友は●●は高いでしょ!」という消費者の“気持ち(K)を読んで(Y)”、「そうじゃないよ!」と訴求するのが一連のCMのキモ。KY戦略は表立っては「カカクヤスク」と「クラシヤスク」の2本立てということになっているが、実は「キモチヨム」が裏に隠されているのではないか。

 例えば、筆者が「おっ!」と思ったのが、冷凍食品の価格訴求だ。

 2002年にウォルマートと包括提携し、2008年には完全子会社となった。ウォルマートの基本はチラシに頼らない「EDLP=Every Day Law Price」だ。しかし、毎日チラシで買い物計画を立てるEDCP(Every Day Chirashi-de Planning?)な日本の主婦には受け入れられず苦戦した。

 そのブレイクスルーがKY戦略の一環である、「他社のチラシに掲載された特売価格が西友よりも安い場合に販売価格を引き下げる“他社チラシ価格照合制度”」だ。その中でも西友が絶対の自信を持っていたのが、当時一層の値下げをした生鮮品と冷凍食品なのだ。

 その自信の源である冷凍食品の価格について、西友は自らアンチテーゼを行った。店頭にポスターを掲出したのだ。

 「『冷凍食品』の割引表示やめます。『5割引』と言われると、確かに安いと思ってしまうけど、元になる定価が高かったら、たいしてお得じゃありません。だから私たちは、まぎらわしい割引表示を一切やめます。正々堂々、価格表示で勝負することを宣言します」

 「5割引って……。一体どういう定価設定だよ!」という気持ちは、消費者の誰しも頭の片隅にあったことだろう。そんな、消費者の「心の底を読んだ」のも、西友の「KY」なのだ。

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